T世界の金融情勢
1.主要証券会社の2011年3月期決算
証券17社減益・赤字
主要証券20社の2011年3月期決算は、17社の最終損益が減益か赤字だった。昨春の欧州聴きや3月の東日本大震災後の市場混乱で、債券や株式の売買業務で損失が相次いだ。個人部門も投資信託の販売が減速し、株式売買も振るわなかった。今期も震災で企業の株式や社債の発行は低迷する公算があり、業績回復の道筋は見えにくい。
野村、58%減の286億円
最大手の野村ホールディングスの純利益は前の期比58%減の286億円だった。中川執行役は「欧州危機や3月の震災の影響を考えるとそこそこの利益を残せた。今期は海外業務の収益化を期待したい」と語った。
個人営業部門の税引き前利益は11%減の1012億円。投信の販売手数料は微増だったが、夏場を中心に株式委託手数料が減った。資産運用部門の税引き前利益は35%増の251億円と好調だった。運用資産が積みあがって手数料が増えた。
法人向け部門は市場関連業務の税引き前利益は9割減の105億円に落ち込んだ。4〜6月期の損失計上が響いた。欧州は不振だったが、米国の収益は前年度の4倍に膨らんだ。投資銀行業務は税引き前損益が128億円の赤字(前の期は32億円の黒字)。りそなホールディングスの大型公募増資や投資先企業の売却益で1〜3月期は179億円の利益を確保したが、昨年4〜12月の赤字を補えなかった。
個人も震災で巨額損失
野村以外の各社も不振が目立った。株比企や債券の売買業務の損失などで、全20社のうち7社が最終赤字だった。三菱UFJ証券ホールディングスが子会社での記入派生商品の売買で1〜3月に約1000億円の損失を出したほか、みずほ証券も欧州でのトレーディング損失などで293億円の赤字になった。
震災も追い打ちをかけた。大和証券グループ本社は東京電力の債券の急激な値下がりや投資先の業績悪化で計180億円の関連損失を計上した。
個人投資家も震災後の株価急落により、先物・オプション取引で巨額損失が反省。個人向け業務が中心のインターネット専業証券は大手5社で計100億円の立て替え損失を計上した。個人は欧州の信用不安後の株価急落で損失を抱え、年間を通して動きが鈍かった。個人の株式売買代金は通年でも16%減の126兆円に留まった。
株発行、下期も不透明
12年3月期も「上期は震災や原発事故の影響がのしかかり、公募増資も少なくなる」(大和証券副社長)との見方が多い。震災後は株式や社債の発行延期が相次いでおり、発行低迷が長引けば証券会社が得る手巣料も落ち込む。各社は復興需要が見込まれる下期の業績回復を目指すが、原発事故の収束時期など不透明要素が多い。
国内証券会社の2011年3月期決算 (単位百万円)
| 区分 | 社名 | 営業収益 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 総資産 | 純資産 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 野村 HLD | 1,385,492 | 28,661 | 36,692,990 | 2,091,636 | |||
| 大和証券G本社 | 403,042 | -45,355 | -32,602 | -37,331 | 16,842,411 | 921,398 | |
| みずほ 証券 | 268,595 | -36,945 | -33,720 | -29,312 | 21,784,855 | 553,973 | |
| 非上場 | SMBC日興証券 | 218,663 | 38,542 | 38,336 | 23,524 | 7,921,710 | 439,210 |
| 非上場 | 三菱UFJ証券HLD | 202,262 | -115,027 | -95,859 | -50,440 | 20,486,251 | 802,106 |
| 岡三証券G | 62,964 | 3,408 | 4,468 | 640 | 542,537 | 112,623 | |
| みずほインベ証券 | 54,122 | 8,336 | 8,820 | 9,316 | 1,041,327 | 100,214 | |
| 非上場 | SMBCフレンド証券 | 53,283 | 10,298 | 10,651 | 4,993 | 265,851 | 172,169 |
| 東海東京 FHLD | 52,402 | 3,089 | 4,806 | 4,318 | 664,376 | 113,015 | |
| 非上場 | SBI証券 | 44,077 | 9,896 | 9,704 | 8,631 | 803,056 | 177,275 |
| マネックス G | 25,227 | 4,741 | 4,990 | 1,992 | 365,730 | 71,025 | |
| 非上場 | 楽天証券 | 22,957 | 6,189 | 6,189 | 2,122 | 388,817 | 31,908 |
| 松井 証券 | 22,091 | 8,450 | 8,479 | 5,410 | 431,729 | 75,752 | |
| 岩井コスモHLD | 20,200 | -1,915 | -1,813 | 3,212 | 168,975 | 31,674 | |
| 澤田HLD | 17,165 | 1,482 | 1,995 | -448 | 155,072 | 27,902 | |
| 丸三 証券 | 14,948 | -153 | 141 | -92 | 75,673 | 43,335 | |
| カブドットコム 証券 | 14,052 | 4,410 | 4,404 | 597 | 395,005 | 32,615 | |
| いちよし 証券 | 13,101 | -1,612 | -1,499 | -1,575 | 35,607 | 24,672 | |
| 東洋 証券 | 12,921 | -226 | 70 | -122 | 69,929 | 32,555 | |
| 水戸 証券 | 10,739 | -845 | -487 | -725 | 46,106 | 27,724 | |
| 藍澤 証券 | 9,486 | -1,973 | -1,978 | -2,605 | 62,972 | 39,050 | |
| 極東 証券 | 7,952 | 2,679 | 2,778 | 1,643 | 56,903 | 31,369 | |
| 高木 証券 | 4,599 | -1,786 | -1,587 | -6,845 | 36,081 | 20,989 | |
| トレーダーズHLD | 4,275 | -942 | -995 | -2,005 | 16,325 | 933 | |
| 黒川木徳FHD | 3,352 | -369 | 124 | 2,097 | 19,661 | 3,541 | |
| インヴァスト証券 | 3,072 | -200 | -185 | -822 | 65,448 | 8,785 | |
| 丸八 証券 | 2,499 | 143 | 95 | 76 | 7,815 | 3,922 | |
| 光世 証券 | 778 | -524 | -482 | -484 | 19,041 | 16,538 |
2.外資系証券 大手10社の前期 8社が最終赤字・減益 日本株の売買減少
外資系証券大手10社の2011年3月期決算は、ドイツ証券やMNPパリバ証券など6社が最終赤字となった。黒字を確保した4社も2社が減益で、営業収益も8社が前の期を下回った。機関投資家の日本株売買で日本企業の新株・社債発行が細るなか、外資系が強みを持つ法人向け証券事業で収益を上げづらくなっている。
メリルリンチ日本証券の最終損益は775億円の赤字(前の期は221億円の黒字)だった。業績不振が続いていた金融子会社の株式を減損処理し、646億円の会計上の一時損失が発生したことが主因。本業では債券トレーディング益等が減少した。
ドイツ証券は収益見通しを下方修正したことに伴って繰り延べ税金資産を取り崩し、503億円の最終赤字(前の期は23億円の黒字)になった。トレーディング損益が悪化したが、「本業全体が大きく落ち込んだわけではない」としている。
最終黒字を確保したGSも株式売買手数料などが落ち込み減収減益。バークレイズ・キャピタル証券も純利益は5600万円に留まった。
一方、モルガン・スタンレーMUFG証券は純利益が224億円と、769億円の最終赤字だった前の期から急回復した。株式・債券のトレーディングが堅調だったほか、10年3月期に計上した証券化商品の評価損や、日本法人を設立した際に発生したのれん代の償却がなくなったことも業績改善につながった。
外資系証券10社の2011年3月期決算
| 社名 | 営業収益 | 最終損益 |
|---|---|---|
| GS | 1108 (▲42) | 181 (373) |
| モルガン・スタンレーMUFG | 805 (102) | 224 (▲769) |
| ドイツ | 738 (▲11) | ▲503 (23) |
| JPモルガン | 693 (1) | 92 (23) |
| バークレイズ・キャピタル | 585 (▲13) | 0 (87) |
| メリルリンチ日本 | 554 (▲14) | ▲775 (221) |
| クレディ・スイス | 450 (▲13) | ▲98 (▲206) |
| UBS | 421 (▲39) | ▲20 (214) |
| シティグループ | 356 (▲58) | 289 (179) |
| BNPパリバ | 342 (▲27) | ▲17 (142) |
3.四大銀の4〜6月 三菱UFJ最終益5000億円モルガンを連結で 三井住友、最高益に迫る
大手銀行4グループの2011年4〜6月期の連結決算では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は米モルガン・スタンレーの連結子会社化に伴なう臨時利益という特殊要因で、連結最終利益が約5000億円と前年同期比3倍に急増。四半期ベースで最高益となった。三井住友FGも最高益だった前年同期に迫る2066億円。3月にシステム障害を起こしたみずほFGは35.6%減の大幅減益で、高コスト体質の是正が急務だ。
不良債権処理損が減少
大手4グループは三菱UFJ,三井住友、みずほ、りそな。連結最終利益の合計は前年同期比49%増の8668億円となった。けん引役は四半期ベースでの過去最高益を更新した三菱UFJで5005億円の最終利益を計上した。
モルガン・スタンレーの連結子会社化という特殊要因を除いた実質ベースも2099億円で、26.2%の増益となった。米国の銀行子会社の不良債権処理が一巡し、連結ベースでの不良債権処理損失が前年同期の541億円から189億円へ大幅に減ったのが主因だ。
三井住友も連結最終利益も最高益を記録した前年同期(2118億円)にほぼ肩を並べた。
大震災の影響では経営が悪化する取引先が増えれば、与信費用も増加すると懸念されていたが、むしろ三井住友では取引先の経営改善で不要になった引当金などを利益計上する「戻り益」が発生した。企業倒産の減少に加え、政府による企業の資金繰り支援策が後押しした面もあった。4グループ合計では、前年同期に123億円だった不良債権処理損は428億円の「戻り益」に転じた。
国債等債券売買も予想以上に膨らんだ。三菱UFJと三井住友は1〜3月期の債券売買益が100億円未満に留まり、今期も低水準で推移すると見ていた。しかし長期金利の低下で三菱UFJが前年同期とほぼ同水準の743億円、三井住友も前年同期比22.5%減の582億円を確保した。
みずほは36%減
3メガバンクの中で見劣りが否めないのがみずほだ。連結最終利益は前年同期比で35.6%減の963億円。システム障害による直接の影響は、顧客のコストを負担した「数億円」にとどまったが、預金と貸出金の利ザヤなどから得る資金利益は5.5%減少。経費率も三井住友の46.9%に対し、みずほは59.1%と10ポイント以上高い。
先行きについては、4グループとも、慎重な姿勢で一致している。被災地の復興の遅れに加え、欧米の財政不安も影を落とし、先行きの不良債権の処理費用が膨らむ懸念がくすぶる。
大手4銀行グループの2011年4〜6月期決算
(単位億円、カッコ内は前年同期比%、▲は減少)
| 実質業務純益 | 不良債権処理損失 | 連結純利益(4〜6月期) | |
|---|---|---|---|
| 三菱UFJ | 2721(1) | 138(4) | 5005(3倍) |
| 三井住友 | 2060(▲6) | ▲313 | 2066(▲2) |
| みずほ | 1423(▲34) | ▲166(2倍) | 963(▲36) |
| りそな | 726(8) | ▲87(2倍) | 633(▲6) |
| 4グループ合計 | 6936(▲10) | ▲428(―) | 8668(49) |
4.みずほ 背水の出直し 傘下2行合併「2〜3年後メド」3トップ制廃止発表
みずほフィナンシャルグループは5月23日、傘下のみずほ銀行とみずほコーポレート銀行を2013年にも合併などで統合すると正式に発表した。グループ最高経営責任者(CEO)となる持ち株会社社長に佐藤康博コーポ 銀頭取が就く人事も決めた。2000年の統合以来続いた旧3行のバランスを重視した人事と組織の見直しにようやく着手し、背水の陣を敷くが、収益力回復など目標実現へのハードルは高い。
持ち株会社の塚本隆史社長は、みずほ銀・コーポ銀の合併について「今後2〜3年がメド」と述べた。再編に先駆けて今年度から持ち株会社、みずほ銀とコーポ銀に別々にある人事部門を一元化するほか情報システムも13年春までに刷新して統合。本部から営業への1000人規模の配置転換を加速する。みずほ信託銀行も企業再編に加わる可能性があるという。
傘下2行の再編方法は「合併等の統合」としており、今後詰めるが、個人・中小企業向けのみずほ銀、大企業向けのみずほコーポ銀に分けた2バンク制をやめ、1バンク制に移行する。
首脳人事は6月に刷新する。持ち株会社の社長をグループCEOと位置づけ、意思決定の最終権限と責任を明確にするのが柱。6月21日に佐藤コーポ銀頭取が現職と兼務する形で就任し、重要案件は3人の合議で決める3トップ制を廃止する。役員人事を決める「指名委員会」は旧3行出身の3人の首脳が委員として参加した従来の仕組みを変え、持ち株会社の社長と社外役員で構成する。
システム障害の責任をとって6月20目に西堀みずほ銀頭取が退任。後任には持ち株会社の塚本社長が就く。
塚本氏は持ち株会社の会長も兼務するが代表権は持たず、佐藤氏を側面から支える。
収益力 3メガで見劣り 組織重複、高コスト 旧行体質どう決別
みずほグループは00年に第一勧業、富士、日本興業の3銀行が統合して発足。02年から持ち株会社にみずほ銀、コーポ銀がぶら下がる「2バンク制」を採用し、持ち株会社と2行の首脳を旧3行出身者が分け合う「3トップ制」を敷いた。持ち株会社と2銀行の役員ポストは90を超え、旧3行で等分してきた。
ライバルの三菱UFJ、三井住友両フィナンシャルグループが銀行頭取が実質的な経営トップであるのに対し、意思決定が複雑で遅れがちといわれた。
11年目の変革11年目の変革
旧3行のバランスを重視した経営体制の弊害は収益性に色濃く表れていた。みずほは顧客基盤の厚みにもかかわらず、融資や為替など手数料収入のシェアを他行に奪われ、本業の利益や連結純利益で3メガ中3位が定位置となってしまった。中核2行が独立した情報システムを持ち、人事などの管理部門も重複して「コスト面でマイナスだった」(塚本社長)。リーマンショック後の国際的な銀行の自己資本規制の強化に対応するためにも、収益力の強化が持ったなしの課題になっていた。
11年目の変革のきっかけは東日本大震災後に起きたみずほ銀のシステム障害。給与振り込みなど100万件を超える決済が滞り、利用者の批判が強まった。
特別顧問制見直しも
ただ、これがグループ改革に一足飛びでつながったわけではない。「旧富土銀出身の西堀氏だけの責任なのか」「持ち株会社の社長の責任は無いのか」「3人は一体ではないのか」。
議論は堂々巡りし、最後に背中を押したのは金融庁。みずほに組織刷新を強く促したことが最終的な決断を後から支える。
みずほは「旧3行」体質と決別し、本当に変われるか。
みずほグループの改革案
組織再編
@2〜3年後をメドに傘下2銀行を合併
A今秋までに証券・信託銀行を完全子会社に
Bシステムは12年度末をメドに銀行の共通基盤を一元化
人事
@3トップ制廃止。持ち株会社社長をグループCEOに
佐藤コーポ銀頭取が就任
A塚本氏はみずほ銀頭取に、持ち株会社の会長(代表権なし)を兼務
B人事担当役員と人事部を持ち株会社に一本化
処分
@みずほ銀は西堀頭取、システム担当役員が退任
A本氏の報酬は6ヵ月50%、佐藤氏は3ヵ月30%削誠
B持株会社・傘下銀行役員はほぼ全員報酬カット
5.三井住友トップインタビュー
2011年4月に就任した三井住友フィナンシャルグループの宮田孝一社長(57)と三井住友銀行の国部毅頭取(57)が5月13日、日本経済新聞のインタビューに応じた。 2001年4月の合併から↓O年を経て、海外業務強化などに取り組む考えを示した。
宮田FG社長 銀行以外の収益3倍
Q:合併してから10年が経過した。
A:他行より一体感やスピード感が出せた。サイズでは少し見劣りするが、立ち回ってこられた。この良さはきちんと受け継ぐ。一方で銀行以外の収益は約500億円と、全体の約1割にすぎない。これを何とかする余地がある。今回策定した中期経営計画では3年後に約3倍にする方針だ。
Q:13年3月期から新しい自己資本比率規制(バーゼル3)が始まる。
A:「14年3月期で(規制上の最低水準を超える)8%程度にする。本格的な運用開始となる19年3月期より5年前倒しで実現する。増資はせず、内部留保でめどをつける。」
Q:長期金利上昇のリスクをどう見るか。
A:債券市場が小康状態にあるのは、米金利の低下や、活発でない社債市場の影響を受けている。長期金利については、しばらく防衛的に見たい。今から国債を買っても、それほど債券売買益が上がるわけではない。
Q:さらなる大型再編は必要か。
A:「時価総額で世界何位という目標を設定するのはわかりやすいが、今はそういう環境ではない。サイズを大きくするための再編には意味がない。全方位で100点を取る必要もない。重要なのは300点を取れる科目をいくつつくれるかだ。
国部銀行頭取 海外で個人金融検討
Q: 国内銀行の合併は必要か。
A: これ以上の再編は行き過ぎだ。今の3メガバンク体制が良いと思う。「我々は海外業務を拡大する。日本だけでなく、アジア全体を母国市場と考え、必要があれば提携やM&A(合併・買収)を考える。アジア向けの貸出残高を現在の3.2兆円から、3年後に6.7兆円に倍増する。
「海外のリテール事業にどう参入すべきかを検討中だ。どこの銀行も今まではほとんど手をつけられなかった。3年間に一定の方向性をつけたい。」
Q:日本企業を支える銀行の役割は。
A:経方針の一つに「プロアクティブ」を掲げた。事が起きる前に、先を呼んで行動するという意味だ。企業成長や構造改革のアドバイスをするのが銀行の役目。こちらから積極的に提案し、再編を促進する。国内の雇用確保や成長産業へのシフトを誘導するよう企業金融部門に指示した。
Q:証券との連携も重要な戦略テーマだ。
A:中期経営計画の期間中に、SMBC日興証券を自前で大きくしたい。10月には日本株を世界的に売り出す体制もできるなど、順調に来ている。
「法人営業部も門で合弁会社を解消した大和証券グループ本社のメーンバンクは我々で、もともと親密な関係にある。既に合弁会社をつくる前の関係に戻っている。機能の強化が必要な提携を考えるかもしれないが、今は自前で大きくすることが可能だと思う。」
6.海外マネー受託4割増 国内運用会社 10年度末残高22兆円 日本の技術力に注目
国内の資産運用会社が海外から受託する日本株運用が急速に回復している。2010年度末の海外マネーの受託残高は22兆5209億円と前年比4割増えた。野村アセットマネジメントなどの大手は今年3月の東日本大展災後もアジアの政府系ファンド(SWF)や年金基金から受託。長期投貢の海外マネーが震災後の株価急落で生じた割安感や日本企業の高い技術力に注目し、日本株の見直し買いに動いている。
日本証券投資額開業協会が運用会社の海外顧客からの受託残高(日本の個人向け外国籍投資信託を一部含む)を集計した。
残高の増加は2年連続。海外からの受託の中心は日本株の運用だ。海外マネーの受託は06年度末をピークに欧米の金融危機や日本株相場の低迷で減少傾向にあったが、ここにきて持ち直しが鮮明になっている。
高い経済成長で運用資産が拡大するアジアの投資家から日本株運用を任されるケースが目立つ。
野村アセットは震災後にアジアのSWFなどから10億ドル(約800億円)近い追加運用を受託した。「日本株に割安感が出る中、銘柄をうまく選別すれば高い運用成果が見込めると判断したようだ」(国際業務部の市村部長)
4月以降も海外マネーの受託は続き、DIAMアセットマネジメントは公的年金から100億円強の運用を受託した。5月に東南アジアの運用会社から日本株ファンドの運用を託された日興アセットマネジメントは「震災でアジアの人々は日本企業が世界経済に占める重要性を強く意識した」(機関投資家事部の大都氏)と指摘する。
「自前では日本株を運用していた海外投資家が日本株に強い運用会社に任せるケースも出てきた」(大和住銀投信顧問の一条専務 )との声もある。同社は10年度中に米国に本部を構える国際機関の年金基金から、日本の中小型株の運用契約を獲得した。
ある大手運用会社は受託した資金の投資先として「自動車や機械など新興国で売り上げを伸ばす企業」を挙げる。「日本のクリーンエネルギー技術に注目する海外投資家も多い」
(DAIMアセット)。運用会社の海外マネーの受託拡大は日本株相場の下支え役になっているといえそうだ。
東京証券取引所によると、外国人投資家の日本株売買は5月下旬に30週ぶりに売り越しに転じた。米景気の回復ペースの鈍化や日本の政局の混迷を受けヽヘッジファンドなど短期運用が中心の投資マネーが売りを出しているとの見方がある。
ただ、海外投資家が運用を日本の会社に任せる場合は「外国人買い」として集計されない。年金など長期投資スタンスの海外勢は「今年度後半の復興需要や株高を見込んで新規の投資資金を預けてきている」(DAIMアセットの国際営業推進グループの奥田部長)との声が根強い。
7.年金、新興国投資を拡大 NTT・丸紅、商船三井 運用改善を狙う
企業年金が新興国の株式など高利回りを目指す資産運用を拡大している。海外株式と、不動産やヘッジファンドなど「代替投資」と呼ばれる分野を合わせた投資額は、国内株式での運用額を超えた。NTTの年金基金が今年度に数百億円規模の新興国株投資を計画するなど、今後も一段と増える見込みだ。株安や低金利で積立不足が膨らむのを避けるため、各社とも運用内容の見直しを急ぐ。
日本株2割切る
2兆円強と国内最大規模の資産を持つNTTの年金基金は2011年度から、資産の2〜3%をBRICsなど新興国株に投資する。投資規模は500億円程度。商船三井の基金も資産の数%を、ブラジルなどの債券に投じる。トヨタ自動車の基金は既に資産の3%程度を新興国株に投じた。
丸紅の基金は今秋から新興国の株式・債券に投資する一方、資産の7%を金、不動産、ヘッジファンドに向ける。
背景にあるのは運用成績の低さだ。10年度の企業年金運用利回りは2年ぶりのマイナス。企業はこれまで予定利率の引き上げなどで対応してきたが、上場企業全体で5兆円前後に上る積立不足の拡大を防ぐには、予定利率を引き下げた企業でも年2〜3%程度の運用益が必要。日本株や国債中心の運用では利回り改善が見込みにくくなっている。新興国などへの「投資の分散で予定利率を確保したい」(丸紅)との狙いがある。
格付投資情報センター(R&I)によると、国内企業年金の運用資産に占める「外国株」と「代替投資」を合わせた割合は00年の18%から今年3月には24%に上昇。これに対し、伝統的に運用の柱だった日本株は00年の36%から今年3月末には19%と2割を切り、日本の企業年金の運用は10年あまりで様変わりした。JPモルガン・アセット・マネジメントが119の企業年金を対象にした調査では、配分を増やしたい投資先として32%が「代替資産」を挙げた。日本株は21%が減らすと回答。資金シフトは今後も続きそうだ。ただ「海外株が資産の2割を超すと、為替変動に左右されやすい」(ラッセル・インベストメントの喜多コンサルティング部長)との指摘もある。
企業年金はかつては国内債券中心に運用していたが、1990年代後半の規制撤廃を受けて株式への配分を増やした後、00年以降の株安で損失が膨らんだ経緯もある。安定的な年金給付原資の確保には、運用のリスク管理も重要になる。
年金運用を巡る最近の主な動き
| 新興国市場への投資を開始・拡大 | |
|---|---|
| NTT | 資産の2〜3%を新興国株に |
| 丸紅 | 新興国株・債券に |
| 商船三井 | 新興国債券に |
| トヨタ自動車 | 資産の3%程度を新興国株に |
| 三菱電機 | 新興国債券に |
| アステラス製薬 | 新興国株の比率を2.5%から4.6%へ |
| ヘッジファンドなど代替資産への投資開始・拡大 | |
|---|---|
| 丸紅 | 資産の7%を代替投資に |
| 積水化学工業 | 代替投資の比率を6.5%から9%近くへ |
| 日本株を縮小 | |
|---|---|
| OKI | 株式に占める日本株の比率を5割から4割へ |
| 東京ガス | 日本株を含む株式運用を取り止め |
8.M&A 世界で復調 2010年2.2兆ドル 業績回復追い風
金融緩和、資金の調達容易 ドル安背景、米社も対象に
低迷していた企業のM&Aが復調してきた。2010年の世界のM&A総額は前年より12%多い2兆2470億ドル(184兆円)で3年ぶりに増えた。企業業績が上向く中で、資源・エネルギー分野をはじめ大型買収が動き出し、アジアなど新興国企業の買収も目立つ。主要国の金融緩和で企業が資金を手当てしやすくなったこともある。円高で日本企業による海外企業の買収も増えている。
世界のM&Aは金融危機後の09年に1兆9980億ドルと過去最高だった07年から半減。10年に入ると企業業績の回復がはっきりし、夏ごろからは手元資金を積み上げた企業が再び買収に動き出した。その中でも国境を越えた買収案件は前年比6割増と回復し、総額8699億ドルに膨らんだ。
大型案件が相次いだのが資源・エネルギー関連。かつて主流だったIT関連に代わって、取引額は4820億ドルと前年から4割増。業種別で最も多かった。
公共事業大手の仏GDFスエズは8月、得いインターナショナル・パワーを買収して世界最大の電力会社になると発表。最終的に断念したものの、豪英資源大手BHPビリトンはカナダのボタシュ・コーポレーション・オブ・サスカチワンに400億ドルにも達する敵対的なTOBをしかけた。
このほか非鉄金属など素材関連も前年比58%増の2260億ドルと急速に増えた。その一方、09年に大型買収が続いた金融機関は11%減の3470億ドルに留まった。
今年8月、鉱山事業の英ベダンタ・リソーシズはインドの資源大手ケアン・インディアを買収すると公表した。先進国の景気回復が足踏みするなかで、成長するアジアなど新興国の企業は有力な買収対象でもある。日本を除くアジア・太平洋地域の企業を対象にした買収は4260億ドル。前年より31%増えた。
またドル安の影響もあって、米国企業を対象にした買収案件は7730億ドルと11%増えた。国別では米国企業を対象にした案件が最多を占める。対照的に低調だったのが欧州企業を対象とした買収で、総額5800億ドルは7年ぶりの低水準だ。
世界の主なM&A案件
| 買う側 | 買われる側 | 業種(金額) |
|---|---|---|
| GDFスエズ(仏) | インターナショナル・パワー(英) | エネルギー(1兆2000億円) |
| ベタンダ・リソーシズ(英) | ケア・インディア(インド) | 資源(7800億円) |
| インテル(米) | マカフィー(米) | IT(6200億円) |
| 三菱UFJフィナンシャル | RBSの開発金融事業(英) | 金融(4300億円) |
| アステラス製薬(日) | OSIファーマシューティカル(米) | 製薬(3680億円) |
| NTT(日) | ディメンション・データ(南ア) | 情報システム(2860億円) |
| 資生堂(日) | ベアエッセンシャル(米) | 化粧品(1700億円) |
| 日本電装(日) | エマソン・エレクトリックのモーター事業(米) | 電機(600億円) |
| 積水化学工業(日) | ジェンザイムの検査薬事業(米) | 化学(220億円) |
9.個人向け社債 急回復 三菱UFJ、丸紅など発行 国債償還マネー狙う
個人投資家向けの社債発行が急回復している。7月に入って三菱東京UFJ銀行、丸紅、小田急電鉄が相次いで起債し、4月からの合計額は約4500億円と昨年度(7800億円)の約6割に達した。東日本大震災後に混乱していた社債市場が復調したうえ、今年は個人向け5年国債が始めて満期を迎え、償還資金の取り込みを狙う企業も多い。
三菱東京UFJ銀は期間10年の個人向け社債1600億円の募集に入った。返済の優先順位が低い代わりに金利がやや高い劣後債で、最初の5年間は利率が年1.11%。個人投資家の需要は旺盛で、発行額を当初予定の1500億円から増やした。
150億円の3年債を発行する小田急電鉄も、利率は年0.38%と大手銀行の定期預金等に比べて高い。低金利で運用難が続く中、社債は個人投資家にとって相対的に有利な金融商品と位置付けられている。
2006年に初めて発行された個人向け5年物国債が今年だけで4兆円の償還を迎え、投資マネーの受け皿として注目されている面もある。丸紅は個人資金の取り込みを狙い、300億円の5年債を発行する。
震災以降、国内社債市場では主力銘柄である東京電力社債が急落し、一時は新規の起債が全面停止するなど混乱に見舞われた。ここへきて、投資家の根強い購入意欲を背景に発行市場の機能回復が鮮明だ。個人向けでは野村ホールディングスなど金融機関が先行して起債し、事業会社にもその流れが広がっている。
日本企業の手元資金は高水準だが「多様な資金調達手段を確保するため、個人向け社債を重視する企業は今後も増えそう」(大和証券キャピタルマーケッツ)という指摘もある。
10.BRICsはもはや「新興」でなく「成長市場」
GSアセット・マネジメント会長ジム・オニール氏
リーマンショックから3年近く経過したが、世界の経済とマーケットはなお不安定な状態が続く。大震災後の日本を含めた世界経済の現状と見通しについて、「BRICs」の名付け親であり、資産運用ビジネスで30年のキャリアを持つジム・オニール氏に聞いた。
Q:世界経済の現状をどうとらえているか。
A:我々は「新しい時代」に入ったといえる。理由は二つある。
一つは、先進国の投資家のマインドが金融危機によって落ち着きをなくしたことだ。投資家達は毎週のように、危機が再来するのではと心配している。もうひとつは、世界経済のドライバーが変わったことだ。今や主導役は中国やインドであって、米国ではない。BRICsを理解せずして世界は理解できない。
世界には65億人の人々がいる。そのうち3分の2はBRICsとネクスト11諸国(GSが選んだイラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、バングラデシュ、パキスタン、フィリッピン、ベトナム、メキシコ)が占めており、こうした国々には債務危機は存在しない。アジアの政策当局者たちは、信用危機は「ノース・アトランティンク・クライシス(北大西洋危機)」だといっている。
QE3の可能性は低い 欧州危機が最大のリスク
Q:米国のQE2(第二次量的緩和)が6月末で終了すると、どういう変化が起こるか。
A:おそらく、商品市場には下押し圧力がかかる。一方、ドルはこれ以上あまり下がらないだろう。
ただ、それも米国の景気次第で変わる。もし米国景気が一段と悪化すれば、「QE3」が実施されるかもしれない。逆に景気が安泰であれば、QE2で終わる。QE3の可能性はあるが、低いと思う。最近の米国景気の減速は、日本の大震災の影響が大きく、一時的なものだ。
Q:欧州債務危機には収束のメドが立たない。
A:世界が直面する最大のリスクがそこにある。問題はきわめて複雑で、政治が深く絡む。危機を解決するには、ドイツによる強力なリーダーシップが必要だが、簡単ではない。
きおれはギリシャの危機ではなく、欧州経済通貨同盟(EMU)の危機だ。おそらくEMUの参加国は多すぎる。すべての国に参加を認めるべきでないだろう。
Q:危機はスペインやイタリアなどへ波及するのか。
A:それを心配している。イタリアは大国で債務規模が大きい。もしイタリアに波及すれば、世界の金融市場にとって大惨事となる。そこまでは波及しなければ、問題は管理可能だろう。スペインやイタリアへ波及する可能性は5〜20%の間ではないか。カギを握るのは政治。特にドイツの出方だ。ギリシャの追加的な救済策が議論されているが、同国の債務は欧州全体のGDPの5%以下で、大きな問題とみていない。
Q:あなたは今年、BRICs4カ国とNEXT11の中の4カ国(韓国、トルコ、メキシコ、インドネシア)を合わせた8カ国を、「成長市場」と新たに定義した。
A:李湯は単純。これらの国々に絶大な経済的機会が存在するからだ。新興市場というと小規模でリスキーという認識があるが、これらの国々はもはや「新興市場」ではない。我々は、世界のGDPの1%以上を占める国(先進国を除く)を成長市場として定義している。過去10年で成長市場8カ国野GDPは20兆ドル増加した。日本を新たに四つ作ったのと同じだ。20年前までに、BRICsだけで世界のGDP成長のほぼ50%を占めるだろう。
日本の投資家は、もっと中国を研究すべきだ。ムンバイやデリー、リオやサンパウロ、イスタンブールに行った方がいい。これらの都市こそ世界の成長エンジン。「新興市場」と呼ぶべきではない。
日本に必要なのは移民、英語、変革の意欲
Q:東日本大震災後の日本経済についてはどう見ているか。
A:日本は今まさに大震災からの回復過程に入ろうとしているのではないか。しかし、需要サイクルは改善に向かうにしても、日本の潜在成長率は非常に低い。人口の減少と低い生産性がその背景にある。
日本は"幸福なうつ状態(ハッピーディプレッション)"に陥っているようだ。日本人は現状に満足しており、変わろうという意欲に欠ける。その状況が続く限り、日本経済の潜在成長力は緩やかに低下していくだろう。大震災がそれを一段と助長する可能性がある。日本に必要なのは、移民、英語の使用、変革の意欲だろう。本当に成長を望むなら、変わらなければならない。
U金融人材の需給状況
概要
2011年3月、東日本大震災以降、我が国及び米欧の先進国、並びに新興国の経済に変調の兆しが現れ、8月米欧のソブリンリスクにより世界経済はますます不透明さを増している。このマクロの環境要因が、当然のことながら日系金融機関及び日本に拠点を置いた外資系金融機関の収益状況に影響を及ぼし、金融人材の需給状況にも反映してきている。
失業率は我が国のみならず欧米でも高止まりしており、金融人材市場は外資系・日系金融機関ともに人材需要は引き続き低迷したままで推移している。現在でも採用をフリーズしたり、リストラを継続している金融機関もある。
- 外資系金融機関(銀行・証券会社・資産運用会社・ヘッジファンドとプライベート・エクイティ等の投資会社)の従業員数はリーマンショック以前の28,000人から23,000人余と減少したが、我が国の金融拠点としての劣化により、外資系は相対的に組織を撤退させたり縮小したりして最終的に20,000人以下に落ち込む懸念が大きい。
- 失業者・転職者の状況は、年齢層では40代が25%で最も多く、次が30代で20%を占める。
金融プロダクト別では、最も多いのはグローバルマーケット(債券、為替、クレジット、コモディティ、株式、及びデリバティブ、調査)で40%を占め、次に企業金融25%、PB/リテール5%が続く。 - 今まで外資系金融機関は我が国の金融市場に金融先端商品を導入して投資銀行業務をリードし、同部門に多数の金融プロフェッショナルを投入してきたが、今や環境変化によって同部門に対する外資系の役割は終えた。言いかえれば、当該業務は以前のような収益を上げられなくなってきたのが理由だ。
- 代わって我が国の金融機関が本格的な投資銀行業務に参入する気配を見せている。しかしながら、メガバンクは依然としてリスクを執らない経営体質を温存したままであり、それ故、リスクあっての投資銀行業務に本腰を入れることは難しいだろう。野村証券がリーマンの部門を買収して、グローバルな投資銀行化を目指し、組織、給与制度を変革しているが、旧来の野村プロパーとリーマン人材を融合できるか、野村のグローバル投資銀行化の成否が問われている。
金融ビジネス別人材需要状況
(当該情報の一部は、エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ社のデータを参考にさせていただいた)
概要
1.金融の「稼ぐ力」に懸念
「金融機関の成長見通しが後退しつつある」。バークレイズ・キャピタルのストラテジスト、バリー・ナップ氏は、金融株の見方を強気から中立に引き下げた。
市場に高まるのは、金融の稼ぐカヘの懸念だ。主要500社の利益を見ると、2007年1〜3月は全体の30%を金融が稼いだが、11年10〜12月は17%。自己資本利益率(ROE)も伸び悩む。好況期はROE15%が当たり前だったが、ナップ氏は12年にようやく10%が見えるとの見立てだ。
こうして金融機関の成長鈍化の見通しを覆すだけの積極的戦略を打って出られるのか、世界景気の不透明さから現時点ではそのような兆候は見られない。したがって外部からの人材採用を通じて組織を強化していく機運に欠けている。
2.投資銀行ビジネスモデルの衰退
リーマンショック後、外資系金融機関が今まで収益の源泉としていた投資銀行モデルが崩れた結果、収益の低下を招いている。多くの金融プロフェッショナルを採用していた当該部門での人材需要は一気に萎んでいる。
3.東京の金融マーケットの地位低下
外資系は在日拠点の廃止・縮小に向かい、主要機関でも強力な組織展開を図っていく機運は見られない。したがって外資系の人材需要の回復は望めないだろう。
4.日系金融機関のリスク回避
日系金融機関は米欧の金融機関に比べてリスク回避傾向が強く金融ビジネス本来のパワーを削いでいる。日系金融機関の付加価値創造力の低下は、米欧金融機関の収益力(ROE,ROA)と比較すると著しく劣っている。グローバル競争に打って出るだけの気構えが感じられず、積極的な組織戦略を展開するための金融プロフェッショナルの採用も本腰を入れる機運にない。
1.投資銀行業務
主要な外資系金融機関及び主要な日系金融機関の投資銀行業務は総じて堅調を維持した。2010年の世界のM&A総額は前年より12%多い2兆2470億ドル(184兆円)で3年ぶりに増えた。企業業績が上向く中で、資源・エネルギー分野をはじめ大型買収が動き出し、アジアなど新興国企業の買収も目立つ。主要国の金融緩和で企業が資金を手当てしやすくなったこともある。円高で日本企業による海外企業の買収も増えている。
当該部門への人材需要はひところから比較して強い需要が見られないが、一部外資系トップクラス、日系メガバンク、証券トップクラスでは高度な金融プロの人材需要があった。
当該業務の商品別に事情が異なり、人材需要も様々だった。
(1)M&A
世界のM&Aの復調、海外に活路を求める日本のM&A案件増加に伴い、主として国内金融機関やM&AブティックからグローバルM&A経験者の人材需要があった。外資系でも若手の人材需要が見られる。
(2)引受(株式・債券)
日本企業による株式での資金調達は、件数で増加、金額ベースで減少。金融機関では三井住友FGやみずほFGの大型増資があったが、全体の株式発行額は減少。一方、大手事業会社の株式発行は、国際石油開発や東京電力の大型増資など高水準となった。
このような状況から、外資系・日系ともに、グローバル金融プロフフェッショナル人材の需要が高まり、若手及び経験豊かなシニア人材を求める動きが顕著だった。
社債発行額は大きく減少。その中で、社債の引受幹事ランキングは、国内証券会社の寡占状態にある。外資系はデリバティブを組み込んだ収益性の高いものに絞っている。それ故、日系・外資系ともに、社債発行とデリバティブの両方の経験を有するプロが求められている。
(3)IPO
IPOは件数ではピーク時より低迷したままだが、金額ベースでは大幅に増加した。第一生命と大塚HDの大型IPOが占めた。成長分野での新規上場は相変わらず見るべきものは無い。IPOの人材需要は殆ど無かった。
(4)カバレッジド・バンカー
シティグループが日興コーディアル証券の業務の一部を三井住友銀行に譲渡したことに伴う人員充当が見られた。外資系シニアバンカーの退職に伴う人材補充があったが、全体として外資系投資銀行で活発な人材需要が見られたわけではない。
日本企業も潤沢な手元資金を使って引き続き国内、海外企業のM&Aを積極的に展開して行く流れだ。この面からM&A関連人材の需要が見込まれる。
企業が投資銀行を選定する基準は、主幹事、メインバンク、グローバルネットワークや調査分析力といったファクターに加えて、クライアントのニーズに即座に対応でき、独自の提案力を発揮できるかも重要だ。この面から、求められる人材とはクライアント企業に対して資本政策全般について的確なアドバイス、提案ができるプロフェッショナルである。当該基準をクリアできる人材は自ずから限られている。日系・外資系ともにこれらの人材ニーズは強い。
2.プライベート・エクイティ(PE)
プライベート・エクイティはリーマンショック以降、低迷している。日本企業に対する投資会社のM&A金額は前年よりは増加したが、ピーク時からは3分の一に過ぎない。外資系ファンドでの人材需要は低迷している。国内ファンドが中小企業の買収に動いているので、この面でソーシングやファンドレイジングのポジションで人材需要が見られる。
3.不動産関連
10年の不動産関連ビジネスは注目案件もあったが、全体として低迷気味だった。CMBSの組成があったほか、注目案件として、ブラックストーンによるBNPやモルガン・スタンレーの不動産関連資産の取得や、さらにメリルリンチの不動産投資ファンドの取得があった。
日銀によるJ-REIT購入の動きからJ-REITの増資が盛んで有力な物件取得に向けて投資資金が流れている。
欧米投資家の日本での不動産市場の地位は低下しているが、東南アジア、中東の新興国の投資家が日本での投資を活発化させている。
東日本大震災以降、不動産関連ビジネスの機運が一気に萎んでおり回復には時間がかかると見る。したがって、当該分野の人材需要も期待できない。
4.債券ビジネス
(1)フロー債券
東日本大震災及び米欧のソブリンリスクを要因として世界経済の停滞懸念が高まり、世界の株価が大きく下落している。投資マネーは安全資産である債券市場に向かっている。
メガバンク、生損保、年金、地域金融機関は国債・公社債の保有比率を高めている。円債の購入では、生損保等の機関投資家が長期国債の購入を増やしており、外債の購入でも邦銀や大手生保も外債投資を増やしている。これにより国内・外資系大手証券会社は、国債、米国債、欧州国債といったフロービジネスの対顧客トレーディングで大きな収益を上げた。
しかし、日本の長期国債の利回り反転や、米国の財政赤字拡大、米国債の格下げにより米国債の利回り上昇で、メガバンクや生保、地銀・信金の一部では大きな損失を被った。
従来は外資系証券が日本国債のマーケットメーキングを独占する傾向があったが、最近では国内大手証券が巻き返しを図ろうとする動きが見られる。本国通貨に換算する場合、急激な円高が外資系に大きなネガティブインパクトを与えている。外資系が短期収益志向を強める中、コスト面でフロントを若年化させる傾向が強い。国内金融機関にとっては外資系金融機関とのメガコンピティションの差を縮める好機だ。
このような状況下でフロー債券ビジネスは、グローバルマーケット部門での強力な収益源であり、債券トレーダーやセールスのプロの人材需要が見られた。当該ポジションの人材需要はこれからも期待できる。
(2)仕組み債・仕組みローン
欧米諸国のソブリンリスク以降、複雑な仕組み商品や運用の中身に透明性がない商品は市場性が無くなった。代わりに単純な商品、明確な商品には富裕層の投資家の購入がみられる。外資系金融機関がリテール投資家向けの仕組み商品の卸売りを積極的に展開し、そのため国内販売会社宛のマーケターや仕組み商品のストラクチャラーの人材ニーズが見られたが、外部採用までには至らず社内異動により充当した。
6.株式関連
(1)株式ビジネス
今夏の欧米諸国のソブリンリスク、新興国の経済変調を要因として、世界の株価乱高下により株式保有から安全資産である債券への移動がみられる。世界経済の先行き不透明さから当分の間、この傾向は続くと見られる。
このような環境下でも、一部の証券会社に株式部門を強化する動きがみられた。日興コーディアル証券は三井住友FGの傘下に入ったが、シティグループからの譲渡に株式部門が含まれなかったため、日本株のアナリストやトレーダーを採用した。また一部の欧州系大手投資銀行が同じ欧州系証券の日本法人の株式部門全体を買収した。
一方、個人投資家のアジア株購入意欲は強く、国内証券各社は当該ビジネスを拡大・強化している。中堅国内証券会社では、リテール向けにアジア株セールスポジションで外部採用機運が高い。
(2)株式調査
一部の金融機関が相当数の日本株アナリストを採用した。まずは日興コーディアル証券がシティグループからの譲渡で株式部門が含まれていなかったこと、及びシティグループとの提携解消に対する措置である。
もうひとつは、外資系金融機関での若手アナリストの大量採用である。世界の機関投資家はアジア株の分散投資のため日本株のシェアを回復させる必要からだ。海外の機関投資家が、購入株式の選定で外資系投資銀行の日本法人を選定しており、外資系証券会社で若手アナリストへの人材需要が見られた。 ただし、東日本大震災以降、世界経済の先行き不透明さから株式から債券への資産の流れから日本株アナリスト・ポジションの採用は鈍化している
7.ヘッジファンド
10年第四半期のヘッジファンド資産残高は1.490億ドルと過去最大のペースで増加、その結果、資産総額は1.9兆ドルと08年半ばまで回復した。
一時期、ヘッジファンド投資を控えていた機関投資家が投資を再開している。大手年金基金の内、3割程度がヘッジファンド投資を増やす方針に転換したといわれる。この動きを受けて、外資系大手ヘッジファンドが投資資金の獲得のための拠点を設ける動きもあったようだが、大きな流れではなかった。
金融危機の反省から「リスクテーキングは悪だ」という風潮がある。その流れに沿って世界的な規制強化策が図られている。しかしながら、金融ビジネスは本来リスクを執ることから始まる。経済発展はイノベーションやリスクテーキングで実現する面もあり、世界にはリスクを選好する投資家もいる。この面から「リスクマネー」のニーズに応える業態が必要だ。投資銀行やヘッジファンドの役割は欠かせない。
8.プライベート・バンク(PB)
日本の金融機関や外資系PBが、個人富裕層に対する資産運用組織を強化拡大し、当該人材採用の機運が強い。今後も当該ポジションの人材ニーズは拡大すると見られる。 従来はプロダクト担当と顧客を持つリレーションシップ・マネジャー(RM)が求人対象であった。最近では投資対象が多岐にわたることから、金融商品に対する幅広い専門知識とグローバル市場を見通せる能力を備え、富裕層宛にポートフォリオのアセットアロケーションの提案ができるプロへのニーズが高まっている。
9.資産運用
10年末の国内公募投信の純資産残高は前年比4%増の63兆7,201億円で、2年連続の増加だった。年間では、前年の2倍にあたる6兆213億円の資金が流入したが、これは21カ月連続の流入超であり、個人マネーの投信への流入が続いていることを示している。しかし、円高と米欧の財政危機の影響を受けて運用のパフォーマンスは悪化しており、残高は流入額ほど伸びていない。こうしたことから投信関連の人材需要は減速した。
投信人材需要の動きは、外資系運用会社による日本市場への新規参入に伴う採用や、日本進出間もない知名度が低いが優良な運用会社による求人があった。海外資産で運用する投信の購入需要は引き続き強く、運用を行っている外資系運用会社での人材需要が引続きあった。公募投信残高の4割を超える海外債券等で運用する外貨建て運用商品に対して資金流入が続いており、当該商品開発やマーケティングのポジションでの人材需要があった。中長期的な拡大が見込まれるノーロード投信を多く扱うインターネット銀行や証券チャネルへの営業力強化を行った運用会社もある。
一方、外資系金融機関では、少人数による販売会社への対応や海外との英語でのコミュニケーションが必要なことから、その当該資格要件をクリアできる人材ニーズがあるが、なかなか的確な候補者がいないのが現状だ。
(2)年金/機関投資家ビジネス
10年3月末での日本の年金資産残高は約272兆円。世界で2番目の規模だが、今後の日本の人口減少の推移から先細りすると言われている。従って、今後年金ビジネスのパイの奪い合いが加速するに連れて、当該ポジションのプロの奪い合いが激しくなると見られる。
年金基金や銀行・生損保等の金融機関向けセールスのポジションの採用ニーズがある。
最近、年金コンサルティングの重要性が見直されていることから、外資系を中心にRFP作成や年金コンサルティング宛リレーションシップ担当のポジションで求人があった。
(3)運用部門
日本株のファンドマネジャーやアナリストに対する人材ニーズは殆どない。プロダクトマネジャーの採用では、外国株、外国債券、オルタナティブ投資の経験者が採用されるケースがあった。国内運用会社のアジア拠点でアジア株運用のプロの採用があった。
(4)オペレーション部門
オペレーションのアウトソーシングの動きは、コスト削減の観点から加速して行くとみられる。
外資系・日系を問わず、投信計理、投信レポーティング、約款・目論見書作成、パフォーマンス分析、コンプライアンスなどで人材採用があった。退職者の補充目的もあった。
09年後半より続いた再編によるリストラクチャリングの中で、所期の目的に対応した組織改編が行われた資産会社では、新しい戦略に基づいた人材ニーズがある。
資産運用業界においても年齢層の偏りから各社とも30才代の中堅層の確保が急務である。特に海外経験をもつ若手へのニーズが逼迫している。
10.人材需給のトピックス
(1)英HSBC、米195店舗売却
英銀行最大手のHSBCは、7月31日、米ニューヨーク州を中心に展開するリテール(小口金融)部門の195店舗を地元地銀に約10億ドル(約770億円)で売却すると発表した。米欧メディアは、HSBCによる役1万人の人員削減も報道。採算性の低い米事業の見通しや全社的なコスト削減を通じ収益力を高める。
195店舗はニューヨーク州を地盤とするファースト・ナイアガラ・バンクに譲渡。ファースト・ナイアガラは1900人の従業員を引き受けるほか約150億ドルの預金で約28億ドルのローン債権などの譲渡を受ける。2012年初めをめどに手続きを完了する見通しだ。
(2)今年2度目の希望退職 三菱Morgan 300人以上を見込む
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は10月に今年2度目となる希望退職を募集する。全社員の4%強に当たる300人以上の応募を見込む。同社は2010年3月期にデリバティブ関連の取引で多額の損失を出し、今期も株式市況の低迷で苦戦している。収益の立て直しに向け、一段のコスト削減が不可避と判断した。
7月25日から社員への告知を始めた。10月に募集し、来年1月末が退職日になる。応募者は割増退職金を受け取るほか、再就職支援会社のサービスを会社負担で利用できる。
前回(今年2月)の募集では主に40歳〜57歳の総合職が対象だった。今回は年俸契約の専門職など一部が対象外だが、全社員の9割に相当する約5千人から幅広く募る。人数に上限は設けないが、少なくとも前回(約270人)を上回る応募を想定しているようだ。
同社は前期、トレーディング損失が発生して1449億円の最終赤字を計上。同時に策定した業務改善計画では、2月募集の希望退職と定年退職などの自然減で約750人を削減して、今期末の人員を6200人程度にする方針を示していた。しかし足元の厳しい収益環境を踏まえて再度の希望退職の募集を決断。今期末の人員を6千人以下まで減らし、人件費の抑制を目指す。
(3)英バークレイズ M&Aの助言業務強化 投資銀の人員日本で4割増
英大手銀行バークレイズは日本の投資銀行部門を拡大する。同部門の人員を昨年9月末の48人から 約4割増やし、7月末までに70人体制とする。日本企業が東日本大震災後も外国企業を積極的に買収していることに対応する。
来日したダイヤモンド最高経営責任者(CEO)が日本経済新聞のインタビューでM&A(合併・買収)の助言など投資銀業務を強化する方針を明らかにした。同氏は「買収の
機会に関する問い合わせを多くの日本企業から受けている。日本でのM&A業務は伸びる」と指摘。「我々は日本で14年間、少しずつ事業を拡大してきた。日本市場への熱意は震災後にむしろ増している」と語った。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券から豊泉直紀氏を採用し、23日付でM&A業務の責任者に据えた。6月にはドイツ証券の浅見一明彦氏も迎え入れる。
以上
