「アジア本社」競う 日本企業、東南アジアに中核拠点。タイ トヨタ・日産 周辺国生産を一括管理  シンガポール 三井物産 東京上回る権限

 東南アジアをアジア事業の中核と位置付け、地域のビジネスの統括拠点を設ける企業が増えている。商社や物流関連企業はインドや中東を結ぶ結節点となるシンガポールに集積し、アジアの東と西を結ぶビジネスの開拓にあたる。タイには製造業の地域本部が集中、周辺国の製造現場を管理する。各統括拠点は「アジア本社」の性格を強めている。
海外M&A推進
 佐川急便を傘下に持つSGホールディングスは今年3月、シンガポールに海外事業の統括会社を設立した。事業範囲はアジアだけではない。全世界の物流網作りの拠点として、海外でのM&A(合併・買収)戦略の先頭に立つ。
 同国には米フェデックス・エクスプレスなど世界大手が地域拠点を構え、貨物の取り込みにしのぎを削る。「世界の企業を相手にするには東京では後れを取る」。SGホールディングスの栗和田栄一会長兼社長は力を込める。
 シンガポールへの地域拠点設立は米欧が先行したが、2000年代半ばからは日系企業の進出が加速している。今年に入っても住友化学や化粧品大手オルビスが域内統括拠点を設立。進出は後を絶たない。
 日系企業の先陣を切った大手商社では惠只からの権限委譲が進む。三井物産は07年に地域統括会社「アジア・大洋州三井物産」をシンガポールに設立。東京本社の機能を移した。各国の事業を結び付け、ビジネスを拡大する役割を担う。
 同社が出資するアジア最大の病院グループ、IHHヘルスケア(マレーシア)はトルコで買収。中国から中東市場の開拓に動く。アジア・大洋州三井物産の山内卓社長の裁量で決裁できる金額は東京の営業本部長を上回る。
 なぜシンガポールなのか。「ここにいないと重要な商談はできない」。山内氏はこう言い切る。同国に進出する多国籍企業は09年時点で7千社。このうち6割程度が地域統括機能を持つ。アジア各国の商談はおのずとシンガポールに集まる。
 一方でタイは製造業の司令塔になりつつある。日産自動車とフランスのタイヤ大手ミシュランは11年、シンガポールにあった地域本部をタイに移した。トヨタ自動車は開発や生産、調達の本部機能をタイに置く。各社の主力工場があるタイから、周辺国の下請け工場を含めた生産を一括管理する。
 味の素はタイ現地法人内の地域本部の法人化を検討している。現在は域内拠点の支援にとどまるが「日本からの権限委譲を進めたい」 (伊藤雅俊社長)。東南アジアでの食品事業を20年に倍増する計画で、販売動向に応じて生産体制を柔軟に修正する青写真を描く。
 フィリピン注目
 背景にあるのは東南アジア諸国連合(ASEAN)が15年末に目指す「経済共同体」だ。関税の撤廃やヒトの移動の自由化などが進めば、下請けを含めたメコン流域の工場を機動的に活用できる。
 「製造に必要な機能がすべてそろっているタイを活用すれば地域戦略に広範なシナジー効果が見込める」と日産モーター・アジアーパシフィックの木村隆之社長はみる。
 国民の英語力が高く、人件費が安いフィリピンに拠点を設ける企業も出始めた。日本郵船は同国をシンガポールの統括機能を補完する拠点と位置付け、出港手続きなど事務作業の集約を始めた。
 同国はまだビジネスの中心とはなっていないが、大手商社では世界中の取引先の信用を調査する機能を持たせる取り組みも始まっており、「アジア本社」機能の一翼を担う素地もできつつある。

外資向け誘致合戦 東南アジア各国 税制優遇など
東南アジア各国は地域統括拠点の誘致に向け、外資系企業向けに優遇税制を設けるなどの施策を導入している。下請け製造拠点から脱皮し、付加価値の高い産業の育成につなげる目的だ。
 シンガポールは1986年に地域拠点の誘致を公式に始め、アジア各国に先駆けて税制優遇などを打ち出した。英語が堪能な人材が多く、国際空港から市内中心部まで自動車で20分程度という利便性も評価されている。もちろん、多数の金融機関が集まる世界有数の金融センターで、決済が容易な点も企業にとって大きなメリットだ。
 最近は賞金の上昇が激しく外国人労働者の就労ビザ発給が厳しくなるなどの問題もある。だが日本貿易振興機構(ジェトロ)が昨年実施したアンケートでは 「シンガポール統括拠点の撤退を考えている」と答えた企業は2.6%にとどまった。
 タイも製造業の拠点が集まる利点を誘致に生かすために税制優遇を強化するなどの施策を矢継ぎ早に導入。現地管理職の給与はシンガポールの約3分の1と人件費の低さも強みだ。(日経新聞2013.09.17)

2013.09.19