イノベーション 米国発 さらば規格品社会

コンピューターで設計図をつくり、プラスチックや金属、ガラスなどの材料を入れれば自動的に立体物ができあがる
 「3Dプリンター」。もともと製品の試作などプロ用だが、ニューヨークにあるシェイプウェイズという会社が一般の人でも使えるサービスを始め、人気を集めている。
 利用は簡単だ。自分がほしい立体物のデザインをインターネットでシェイプウェイズに送信。すると3Dプリンターを備えた同社の工場で形になり、最短10日で実物が届く。
1立方メートルあたりの材料費は0.75~20ドル。アクセサリーや置物を注文する人が多い。
ネット上に店を開いてほかの人に売ることもできる。
 自分だけの1台
  「みんな規格品ではなく、本物のパーソナルを求めている」。ピー才-・バイマーシ
ュハウズン最高経営責任者(CEO)は話す。月産3万個。欧州に続き2012年にはニューヨークにも工場を設ける。3Dプリンターは性能向上と値下がりが急ピッチ。
 「10年もすればパソコンのような電子機器も自分だけの1台をつくれるようになる」
 ネット上の情報をつなぐ基盤技術「ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)」の開発から20年。情報収集や発信が容易になり、創造力を刺激された個人はコンテンツ制作のけん引役になった。ユーチューブには毎分60時間分の動画が投稿され、スマートフオン(高機能携帯電話=スマホ)アプリはアップル用だけで55万種類に及ぶ。
  そんなネット革命の中心地米国で、個人の創作意欲はリアルな手触り感のあるものづくりに向かい始めた。新潮流は「メーカームーブメント」と呼ばれ、関連サービスが勃興する。
衣類、バッグ、食器、家具、玩具……。同じくニューヨークのベンチャー企業、エッツィーの通販サイトで売り買いされるのはハンドメード品だ。ただの趣味人の集まりと片付けられない。1200万人がサイトを使い、11年の販売額は前年比7割増えて5億2千万ドルを超えた。
大量生産の終わり
 チャド・ディッカーソンCEOが言う。「エッツィーの成功は大量生産時代の終わりを告げている」
 未来学者のアルビン・トフラーが著書「第三の波」で、消費者でありながら生産にも主体的にかかわる「プロシューマー」台頭を予見したのは1980年。現状をみれば、単に個人が力をつけただけではない。同じ価値観や目的を持つ人がネットでつながり影響力を発揮しやすくなった。
  「個人が主役」のうねりは働き方にも及ぶ。「好きなときに好きなところで好きな仕事をする。人々が欲しがっているのはそういう柔軟性だ」。
 シリコンバレーに本社を置くオーデスクのゲアリー・スワートCEOが指摘する。同社はサイト開発やデータ入力、翻訳、会計などの業務を外注したい企業の情報をネットに公開し、個人に仲介する。個人は自宅などからオンラインで業務をこなし、働いた時間分の報酬をもらう。
会員登録する個人は140万人。特定の会社に属する歯車になるつもりはない。能力を生かせる仕事を探して働き、生活のリズムも守る。11年の報酬は合計で2億2千万ドル以上。労働力を随時調達できる利点からマイクロソフトなど25万社が仕事を外注する。
  携帯電話(フォン)、テレ電力計(メーター)。IT(情報技術)と組み合わさスマート(賢い)の枕ことばがつくハイテク機器が増えている。道具として使いこなす個人の意識も当然スマート化する。賢くものを手に入れ、賢く働きたい--。
ネットを行き交う情報にはデマや誤解など落とし穴もあるが、ネットを駆使する「スマートな個人」の時代はこれからが本番だ。彼らをターゲットにしたサービスの需要が旺盛なことは米3社の事例が示す。まだ数は少ないが、日本からの利用者もいる。
  量販店で大量生産品を買い、家と職場を黙々と往復する。20世紀に定着したそんな風景からはみ出す動きは今後、ますます広がる。規格社会の古い発想を捨て改めて世の中を見渡せば、イノベーションの糸口が見えてくる。

2012.01.29