海外M&A成功の秘訣 日本電産社長 永森重信氏

 日本企業が海外企業を積極的に買収している。今年1~6月の買収件数は丸紅が米穀物商社(2860億円)の買収に合意するなど、262件(レコフ調べ)に上り、上半期で過去最多となった。円高を活用し国外に成長を求める傾向は強まる一方だが、成功の秘訣は何なのか。創業以来35社を買収した日本電産の永守重信社長に聞いた。
 お買い得でない
 --日本企業が海外でM&A(合併・買収)に積極的です。
 「為替が円高に動くたびにM&Aブームは起きる。だが、買収後にうまくいったケースが少ないのはよく知られている通りだ。登山に例えれば、M&Aは契約の時点で2合目しか登っていない。残りの8合分は企業文化の違いを擦り合わせる
 『PMI』という手間のかかる作業で、これがまた難しい」PMI(ポスト・マージ
ャー・インテグレーション):M&Aをした後に買収先企業と組織や経営の進め方を統合する作業のこと。
 --円高は本当に追い風でしょうか。
 「円高だからお買い得というわけではない。売り手もこちらの状況を知っているから価格をつり上げる。当社は6月にイタリアの老舗モーターメーカー、アンサルドを買収したが、入札では内外12社が競合し売値がじりじり上がった。結局通常より割高で買わざるを得なかった」
 --それでも日本市場が縮むなか、海外への期待は大きいです。M&Aで重要なのは何ですか。
 「私の場合は一生懸命働く、解雇をしないなどの理念を相手が持っているかどうかを見極める。海外企業であれば経営者も見る。人事制度や企業文化が違うから日本人が経営するのは本来無理。任せられる人がいるかどうかがカギであり、大きな方針は示しても、オーナー株主という一歩引いた気持ちで経営を委ねている。シナジー効果や技術力も大事だが、優先順位はそれらの次だ」
 「イチロー式」で
 日本電産はM&Aで成長しました。
  「野球で例えればイチロー選手だ。小さな買収を重ね、ヒット、ヒットでつなぐ。私だってできればホームラン(大型買収)を打ちたいが、身の丈というものがある」
 --経営不振企業も買収し、再生しました。
 「そうした企業の多くは買収金額がほぼゼロの状態で買うので、意外に自己資本を毀損する危険がない。むしろ買収して再建したら、あとは価値を生むだけ。日本電産サンキョーや日本電産シンポなどの子会社は今年になって韓国のモーター会社や米プレス機大手を買収している。M&Aによる成長循環は『第二のステージ』に入った」
--海外をみると米アップルや韓国サムスン電子などは意外にM&Aをしていません。
 「アップルは新しいビジネスを創造している企業であり、買収すべき会社がどこにもないからだ。韓国などアジアの企業は日欧米の後を追う経営モデルだから、これまでは日本の技術者を引き抜いてアップルや日本企業と同じモノをつくっていればよかった」
 「ただ中国などが台頭してきたから、今後は経営モデルも変わる。先端技術を開発するため、日本など先進国の企業を買いに来る可能性がある。そうしたら企業買収で時間を買わないといけない日本とM&Aでも競うことになるだろう」






2012.08.12