世界経営者会議 日産自動車社長 カルロス・ゴ―ン氏

 --日産自動車に来てからの13年間を振り返って、どう評価するか。
  日産にとっては目覚ましい旅、冒険だった。本当の再生だったと言える。原価低減やリストラの結果再生できたのではない。あるべき姿、ビジョンを描いたから再生できた。そのビジョンを世界中の従業員が共有し同じベクトルに向かっていった。従業員のモチベーションを高め、動機づけするような目標を立てた。これを維持できる限り、日産の将来は明るい」
 --仏ルノーとの連合が機能している理由は。
  「企業提携で最も重要なのは、組織づくりではなく、心構えだ。両社がともに利益を享受するには何かできるかを互いに考える。それを実行するのは人であり、組織ではない。ビジョンを掲げ、人々のモチベーションを上げ、企業への忠誠心を促す。組織はその後についてくる。組織やプロセスを優先させると、残念な結果になる」
 --変革をリードする人材の見極め方は。
 「変革を主導するのは、情熱のある人材だ。情熱がなければ、革新は生まれない。変革には多くの戟いが必要。それを乗り越えないと明るい兆しはみえないものだ。そして、共感力だ。つまり周囲の人々と心を結びつけ、情熱を分かち合う。人の声に耳を傾け、心をつかめる人材だろう。変革者は専門知識を熟知し、情熱をもって相手を説得できなければならない」
 -足もとの世界経済をみると、欧州、中国やインドなど新興国にも陰りがみえる。
 「将来の計画を立てる際は、予想外の出来事が起こりうることを織り込んでいる。だが全てを想定はできない。例えば、日中関係の緊張の影響は想定していなかった。円高是正に成果がでないとも考えていなかった」
  「グローバル経済は成長を続ける。2012年の自動車の全体需要は11年よりも拡大し、13年も過去最高を更新する。欧州と日本は鈍化し、市場拡大の支障となっているが、中国、ロシア、インドなど新興国は順調で日欧の不調を相殺できる」
 --反日感情が高まる中国市場の先行きをどうみているか。
  「中国経済は向こう5年を予測しても経済成長に問題はない。日欧に比べ債務が少なく、内需も強い。今後も世界経済の成長のエンジンとなっていくだろう。中国市場の重要性に変わりはない」
  「政治は理屈だけでは動かないが、感情論だけに支配されるものでもない。日本と中国は補完性があるという共通の意識をもつべきだ。最終的には緊張関係を乗り越えて、持続可能な関係を築いていける」
--グローバル化か加速するなか、日本の役割をどうみるか。
  「日産は日本企業だ。国内で活動するのが最善なのは間違いない。ただ、日本には国内で事業活動を促すインセンティブがない。最大の障壁は円高だ。輸出が極めて難しく、日本での活動を低下せざるを得ない」
  「今は円高ではないという学者の指摘もある。だが、経営者は皆、円高に苦しんでいる。雇用創出しているのは学者ではなく、我々企業だ。1ドルは100円が妥当な水準だろう。当局には円高是正に向け『がんばる』という言葉だけでなく、『結果』を出してほしい」

豊富な国際経験不可欠  IMD学長 ドミニク・テユルパン氏
 IMDが毎年発表している世界各国の国際競争カランキングによると、日本の順位は199心年代初頭の1位から2010年に27位まで沈んだ。政治的リーダーシップの欠如や中央銀行の役割が果たされていない問題もあるが、日本企業の対応力不足も大きい。
 日本には生産的な労使関係や研究開発力など多くの強みもある一方で、高齢化や語学力不足、幹部人材の国際経験不足などの弱みも大きい。特に、日本企業は若手への教育には熱心なわりに、一定以上になると投資を止めてしまうため、幹部層への教育は不十分だ。
 だがグローバル化する企業経営では、リーダーに豊富な国際経験が強く求められる。好奇心を常に持ち、自信を持つことも大切だ。偉大なビジネスリーダーは楽観主義者であり、ストレスを感じにくい。そういった個人の特性には差があるが、適材適所で人材は使い分ければいい。
 欧米企業のオープンさと対照的に、日本企業は才能ある日本人以外の管理職にチャンスを与えていない。トップのポジションには本国の人だけでなく、外国人や現地人材も登用すべきだ。人材の多様性を確保するには明確な目標を設定する必要がある。出るくいを打つようなことはすべきでない。「日本は特異な国だ」という話もよく聞くが、それはどこの国でも同じであり言い訳にならない。
 現在IMDにも幹部候補の日本人が学びに来るが、それを上回るハイペースで中国人が来ている。このままではやがて日本は彼らの後じんを拝することになる。

2012.10.31