世界経済の潮流変化に備えを

 株式や円相場の値動きが激しくなっている。背景には米国の金融政策や新興国景気の先行きに不透明感が出ていることがある。
 政府・日銀が市場の日々の動きに右往左往する必要はない。ただ成長戦略強化や金融緩和の継続を通じたデフレ脱却に全力をあげるとともに、財政再建への道筋を明確に示し、世界経済の潮流変化や市場変動に備えることは大切だ。
米金融政策が台風の目
 世界の株式相場は昨年秋から今年5月ごろまで、世界景気などに楽観的な見方が台頭したため、ほぼ一本調子で上昇。海外投資家がリスクを取るようになったタイミングで、大胆な金融緩和を柱とするアベノミクスが登場したことが日本の株高・円安につながった。
 最近の株価下落や円相場の反転の裏に日本の成長戦略への失望感があるのは確かだが、世界の状況変化の影響を受けた面も大きい。日本の経済や市場を左右するのは世界の経済情勢であることを改めて見せつけたといえる。
 市場変動の震源地は米国だが、実体経済は着実に回復している。住宅価格が上昇に転じたことで個人消費は改善。雇用も緩やかながら増えてきた。シェールガスの増産などを機に製造業復活への期待感も高まっている。増税など財政緊縮策による景気押し下げ圧力は予想より小さかったといえる。
 こうした中で、米連邦準備理事会(FRB)が金融の量的緩和策を予想より早く縮小させるのではないかとの見方が広かったことが世界の株式・為替市場を揺さぶっているのである。
 一方、欧州は債務危機こそ小康状態にあるが、実体経済は悪化している。ユーロ圈は今年、ドイツを除くとほぼ軒並みマイナス成長になりそうだ。財政緊縮策の影響もあるが、バブル崩壊後の日本と同様、金融システムがなお不安定なことが経済を下押ししている面も強い。
 気になるのは新興国経済の勢いが鈍っていることだ。中国は7%台後半の成長を維持しているが、景気は減速傾向にあると見られている。鉄鋼など製品の供給過剰や地方政府の過剰債務といった構造問題も抱える。インドの成長鈍化はさらに顕著だ。その結果、新興国に向かっていた世界の余剰資金が引き揚げられる動きも目立つ。
 総じて見ると、世界経済は緩やかに成長しているものの力強さに欠ける。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は今月初め、世界景気は「一時的な足踏み状態に入りつつあるかもしれない」と述べた。
 今後の最大のリスクは新興国の成長がさらに鈍化し、こうした地域の株式や通貨が大幅に下落することだ。リスク回避の動きが強まれば、欧州危機の再燃や世界的な株安につながる恐れもある。
 半面、米国経済が一段と回復すれば安心材料になる。その場合、FRBが金融の量的緩和政策からの「出口戦略」をうまく進められるかがカギを握る。中国については成長が大きく減速すれば当局が下支えに動くとの見方も根強い。
 リーマン・ショック後に危機に陥った米欧のうち、米国は回復軌道に入り、下支え役だった新興国に陰りが見える-。その意味で世界経済の潮流は少しずつ変化している。経済の移行期を迎えた世界の金融市場がしばらく不安定な動きを続ける可能性があることを覚悟する必要があるだろう。
信頼される政策運営を
 日本はどぅこれに向き合うべきか。そもそも、アベノミクス登場以来の日本は株高や円安が予想以上に迪んだ点で運が良すぎた。アベノミクスヘの評価だけで日本への資金が出入りしているわけではないという冷静な視点も必要だ。
 同時に「異次元の金融緩和」などの新しい対応が世界の投資家の関心を呼び覚ましたのも磴かで、これまで以上に責任ある政策運営を進めることが求められる。
 1つは社会保障費の歳出削減など具体策によって財政健全化計画の信頼性を高めることだ。日銀も財政赤字の穴埋めはしない姿勢を改めて鮮明にすべきだ。そうでなければ長期金利が必要以上に上昇し、景気を悪くする心配がある。
 2つ目は安倍晋三首相が言うように「スピード感を持って規制・制度改革を実現してみせる」ことだ。成長戦略に盛り込んだ政策は確実に実施するとともに、もう一段踏み込んだ成長強化策も打ち出していくべきだ。
 世界経済や市場の潮流変化に目をこらしつつ、筋の通った政策運営に努める。それができなければ日本は変わったという期待は一気にしぽみ、信頼を失いかねない。(日経新聞2013.6.17)

2013.06.17