MSバルマー氏が悟った限界 IT開花 新発想競う時代

 12ヵ月以内の退任を表明した米マイクロソフトのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)が好んで使う単語にtenacityがある。不屈という意味だ。かつて同社は貢果通りの経営で成長した。
  「アップルのまね」。皮肉られてもめげずに基本ソフト(OS)を売りまくりパソコン業界に君臨。インターネット閲覧ソフトでは新興企業をけ散らした。独禁法違反を問われるなか、1999年、米株式市場で時価総額の史上最高を記録した。
 CEOがビルーゲイツ会長からバルマー氏に代わった2000年以降、歯車がくるい出す。無料のネットサービスが台頭し、ソフトで稼ぐ事業モデルは揺れた。スマートフォン(スマホ)がIT(情報技術)機器の主役になると、パソコンOSのシェア9割もありがたみが薄れた。
 バルマー氏はあきらめなかった。ネット検索や広告でヤフーと、スマホでノキアと組み巻き返しを試みる。しかし結果が伴わない。「家庭と仕事。たまのゴルフ。ほかに情熱を注ぐものはない」。同氏は地元紙に語った。業界を代表するモーレツ・ビジネスマンだが、事業規模を求め力でぐいぐい押す手法は通用しにくくなったようにみえる。
 データがあふれ、モバイル端末が興隆する今。世界で24億を数えるネット利用者の要求は刻々変わる。そうしたIT開化の時代に光を放つのは、発想が柔らかく、古い秩序や事業領域を突き破る経営者たちだ。
 電気自動車ベンチャー、米テスラ・モーターズを創業したイーロン・マスクCEO。シリコンバレーのエ場ではロボットがIT満載の車を組み立てる。父親がフォード・モーターで働き、 自動車都市デトロイト近郊で育ったバルマー氏にマスク流は驚きに違いない。
  「人類の英知を広げ、未来を守りたい」。ネット決済で成功し、宇宙事業にも手を広げるマスク氏。今月ロサンゼルスとサンフランシスコを35分で結ぶ新交通構想を発表した。
 米アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスCEOも旬だ。ネット書店のはずが気がつけばグラウトサービスでマイクロソフトを脅かす存在に。ペゾス氏は今月、米ワシントンーポスト紙を買収すると表明した。
 「ネットがニュース産業を変えている。発明の機会を得てわくわくする」
 もちろんバルマー氏やゲイツ氏、米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏らパソコン誕生期に青春を過ごした経営者の功績は大きい。愚直にIT社会の土台を築いた世代がいたからこそ、その後の経営者がアイデアを形にできる。
 「世界の共通言語にしたい」。無料通話・チャットアプリで快走するLINEの森川亮社長は21日、イベントで語った。目標は年内に利用者3億人。端末やOSをつくるアップルやグーグルではなく、新興アプリ会社でもスマホの盟主を目指せる時代だ。
 社員にあてた退任メールに「この会社を愛している」と書いたバルマー氏。新種の経営者達と戦う限界を悟ったのかもしれない。不屈のバルマー氏さえのみ込む変化が容赦なく進む。これこそIT産業のダイナミズムだ。(編集委員村山恵一日経新聞2013.0826)




2013.08.27