混沌の先 リーマン・ショックから5年 技術革新をもう一度

 「続けていても傷を広げるだけだったろう」。関係者はそう振り返る。7月、NECはスマートフォン(スマホ)からの撤退を発表した。
 スマホはリーマン・ショツク後に急成長した世界的なイノベーション(技術革新)。だが、NECは昨年には「ノンコア」と判断、投資を減らしていた。
最先端から脱落
 2000年代初め、日本の電機は家電デジタル化の最先端にいた。だが最近は世界で戦うメーカーが急激に減っている。スマホのほかではテレビだ。パナソニックやシャープが事業を縮小。日立製作所は自社生産をやめに。
 転換点はリーマン危機にあった。08年秋、日本の製造業も需要蒸発と資金繰り難に見舞われた。電機メーカーでも資金の手当てが懸念された企業は複数社あった。「一時は破綻を覚悟した」と真顔で語る幹部もいる。
 電機大手8社は09年3月期決算で計2兆円の最終赤字を計上した。危機の直前まで薄型パネルへの投資を続けた日立は製造業最大の7873億円の赤字となり、経営陣は退陣。他の電機でも社長3人が交代した。 
その後、日立や東芝、NECなどは投資の大幅な抑制に勣いた。法人企業統計によれば、日本の製造業は危機以降、設備投資が減価償却費を下回る状態が常態化した。バブル崩壊時でさえ、「そんな減り方は見られなかった」 (財務省)。
 懸念されるのは技術開発への影響だ。特許庁によれば、日本企業の出願件数は危機の翌年以降激減した。一方、韓国や中国企業は件数を増やし、日本の電機が削減した2万人ともいわれる人材の受け皿にもなった。
 積み上がった現金は224兆円。問題は「リスク恐怖症」の企業がどう使い始めるかだ。
  「今後も世界経済は楽観が難しい」。米ゼネラル・エレクトリック(GE)会長ジェフ・イメル卜(57)は今年の株主への手紙にそう記す一方、「投資は増やす」と話す。インド、ブラジル、米国。精力的に建設するのはソフトウエアの開発拠点。15年までに10億ドルを投じる計画だ。
 GEもリーマン危機で金融部門が打撃を受け、投資家ウォーレン・バフェツト(83)に優先株を引き受けてもらった。
 だが、2年でそれを買い戻し、株式の時価総額は現在世界7位だ。「もっと技術革新を」。開発したソフトは販売する航空や医療機器の稼働効率を遠隔管理で高める新サービスに使う。狙うのは新たな市場づくりだ。
「再び世界狙う」
 歴史をひもとけば技術革新は危機後に生まれる。1929年の大恐慌から数年で生まれたのはナイロン。不況で他社が投資を減らす中、米デュポンが最後まで開発を続け、果実を手にした。 日本も79年の石油危機の中、ソニーが音楽プレーヤー「ウォークマン」を開発。家電産業を変えた。日本はまたアニマルスピリッツ(血気)を取り戻せるか。
 パナソニックは今年度、自動車用電池への投資を再開する。三洋電機買収以来、リストラが続いたが、米電気自動車ベンチャー、テスラ・モーターズ向けを手始めに「もう一度世界を目指したい」と幹部は言う。
 新しい成長のモデルはまだ見えない。だが、日本に活気を取り戻すには世界を変える技術の力が要る。企業の進む方向は明暗だ。(日経新聞2013.09.15)  

2013.09.20