IT技術者「2015年問題」特需2.6兆円 開発へ8万人不足

 国民一人ひとりに番号を振り、税の徴収や社会保障給付に役立てる共通番号(マイナンバー)の通知まであと2年を切った。自治体や企業の準備作業は膨大で、導入に向けた動きも鈍い。対応のためにシステム開発業界では2兆円超の特需が発生するともいわれるが、直前に仕事が集中してシステムエンジニア(SE)が不足する「2015年問題」を懸念する声が早くも上かっている。
  「とにかく作業量は多い」。日本マイクロソフト出身者を最高情報貎任者(CIO)に起用するなどIT(情報技術)活用に熱心な佐賀県。「番号制度活用推進本部」を立ち上げ、マイナンバーの導入で行政の実務がどう変わるのか、全庁挙げての洗い出し作業を進めている。痛感するのはその対応作業の煩雑さ。
自治体の腰重く
 マイナンバーは政府機関や地方自治体などがバラバラに管理している個人情報をネットワークで連係させ、相互利用できる仕組み。例えば、社会保障の給付申請の際、現状では役所をはしごして住民票などの添付書類をそろえる必要があるが、役所間でデータをやりとりすれば、その手間が省ける。税徴収の漏れや生活保護の不正受給も減らせるメリットがある。
 市区町村が住民に番号の通知を始めるのは15年10月。行政利用の手続きは便利になるが、そのための準備作業は膨大だ。
 佐賀県では事務手続きの一つ一つに必要な書類や発行元を確認。必要な業務を点検し新たな業務フローを1から作り直し、システム設計に反映させる。「庁内に140あるシステムのどれだけが改修対象になるかはやってみないと分からない」(佐賀県情報課)
 自治体向けコンサルティングを手掛けるITbOOk(東京・港)の伊藤元規社長は「マイナンバーの対応は可能な限り急がないと閧に合わない」と警鐘を嶋らす。
 だが、佐賀県のように本格的な準備を始めた自治体はまだ少ない。ようやく重い腰を上げ始めたものの「何をすればいいかわかっておらず、システム会社に頼めばやってくれると勘違いしている自治体も多い」(IT企業幹部)。
 マイナンバーは政府が構築する「情報提供ネットワークシステム」を核に、都道府県や市区町村、健康保険組合など、8000近い機関の情報システムがつながる。さらに企業も連係するため、国を挙げてのシステム整備が必要。かつてすべてのコンピューターの改修を迫られた「2000年問題」に次ぐ大作業になる。大和証券の上野真シニアアナリストの試算では、関連のIT投資は2兆6000億円に上る。
 特需に期待が膨らむIT業界だが、同時に懸念も高まりつつある。情報システムの構築や改修を手掛けるSEの不足だ。
 SE奪い合いも
 自治体や企業の対応はこれからが本番。煩雑な業務フローの見直しなどが遅れており、このままでは実際のシステム構築・改修作業は来年夏ごろから1年あまりの期間に集中する見通しだ。
 アベノミクス効果もあって、企業のIT投資は足元で回復基調にある。システム各社は通常業務で企業からの受注増に応えつつ、マイナンバー対応も同時並行で進めなければならない。
 対応できるSEは国内で80万人程度といわれる。上野氏はマイナンバー導入に向けた開発業務の集中で「自冶体向けだけでも7万~8万人が不足する」と指摘する。システム大手は「対応は可能」(富士通の浦川親章・取締役執行役員専務)と口をそろえるものの、地方自冶体や企業の多くは中小の業者にシステム開発を頼っているのが実情だ。「SEの奪い合いになる」(上野氏)可能性が大きい。
 ITbOOkの伊藤社長も「たった1年でこれだけの規模の仕平をこなせるだけのSEの確保は困難。『コンピューター2000年問題』を上回る混乱を招く可能性がある」と危惧する。
 富士通やNEC、日立製作所などシステム大手は自治体回りを始めたが、期間分散などを進めなければマイナンバー対応が混乱する「2015年問題」が現実になりかねない。
(日経新聞2013.11.14)

2013.11.14