武田に外国人社長 国境超えた経営に必要 1兆円買収活かし切れず

 武田薬品工業は初の外国人社長の起用を決めた。来年6月、英グラクソースミスクライン(GSK)幹部のクリストフーウェバー(47)が社長兼最高執行責任者(C00)となり、1年後に最高経営責任者(CEO)に就く。日本企業が提携先などから外国人トップを招く例はあったが、今回は競合相手から引き抜く。創業232年の老舗企業がなぜ異例の人事を断行したのか。単独インタビューに応じた社長の長谷川閑史(67)の発言から検証する。
 武田がグローバルに競争力のある会社になるため、買収した海外企業を本社から統治する力量が問われている。しかし、できなかった。我々にまだ力がなかった。
 長谷川は2003年に武田国男の後任として創業家一族以外では初の社長に就任。08年に米ミレニアム・ファーマシューティカルズを約9千億円で買収するなど海外で大型M&A(合併・買収)を進めた。13年3月期の連結売上高1兆5572億円のうち海外比率は5割超、従業員の3分の2が外国人だ。
 だが11年に約1兆1千億円で買収したスイスの製薬大手、ナイコメッドでマネジメントの壁にぶつかる。研究から製造・販売まで欧州、南米を中心に約1万人の社員を抱える同社を日本人幹部では動かせなかった。
 これからあらゆる面で武田とナイコメッドを一体的に経営していく必要がある
  見よう見まねではできない」。長谷川は12年に入りグローバル企業での勤務経験者を探し始めた。国際人材開発、財務、調達などの各部門でヒルトンホテル、製薬大手の仏サノフィ、スイス・ノバルディズなどから人材を迎え入れた。
  私のグローバルマーケティングの感覚はもう古い。新興国については経験がないから感覚的に分からない。リーダーとして新興国で成功体験がある人でないとダメだ。
 長谷川は「後継は日本人」と言い続けてきた。しかし、外国人幹部が成果を出し始めたことからトップに外国人を招く環境が整ってきたと実感。特に新興国攻略を陣頭指揮できる人材を探した。
  日本人も含め候補者 を探した。選んだ6人 はトップクラスの才能 の持ち主。社員の意見を募り、CEOの要件を突き詰めた。
 長谷川は社外の有識者で構成するグローバル・アドバイザリー・ボードのメンバーが推薦した候補者を、CEOを選ぶ専門コンサルティング会社を使ってふるいにかけ、2人に絞り込んだ。「甲、乙つけがたかった」が、最終的にウェバーに白羽の矢を立てた。
 フランス人のウェバーば薬学の博士号を持ち、英語とドイツ語も話せるという。GSKではアジア太平洋の上級副社長を務め、バイオ分野にも詳しい。長谷川が魅力を感じたのは新興国市場での豊富な実務経験。ダイナミックさを感じさせる人柄も決断を後押しした。
  取締役会のクローバル化は定着した。これが社内に波及していく。
すでに武田の取締役会での識論、文書は全て英語。ウェバーの社長就任でグローバル化は次のステージに進む。新たな教育・登用制度で日本人を含む全社員が成長し、重責を担う機会をつくっていく。

70億人からトップ選び 企業統治の改革迫る
 「トップは世界から選ぶ」は日本でも常識になるかもしれない。
 モリッヒ、ヤマダ、プロトパパス、オズボーン、ロジエ。武田薬品工業の名簿をみると執行役の最高意思決定機関、グローバル・リーダーシップ・コミッティーは9人中5人が外国人だ。
 その同社が次の執行役役トップ(社長)に決めたのはフランス人。長谷川閑史社長は「グローバル・スタンダードに従いバーを高くして選んだ」と話す。
 70億人対6千万人・・・・。欧米と日本の企業を比較したこんな議論がある。取締役会が強くなった1990年代以降、米欧企業は経営者選びを社外、それも海外に広げる傾向を強めた。
 人種や国籍、性別は問わない。だから選択の幅は世界の人口(約70億人)に広がった。一方、日本企業はその後も「日本人男性」に絞るやり方を変えず、選択肢は日本の男性人口、約6千万人のままだった。
 多極化する壯一界でどちらがチャンスを広げたかは自明だ。米優良企業を論じた「ビジョナリー・カンパニー」を読むと米欧にも「生え抜き人材を重視する優良企業は多い」とある。だがヘッドハント会社や自前の助言機関から情報を得、社内と世界の人材を常に比較している企業が大多数なのもまた事実である。
 日本でもここ数年、日本板硝子が買収先の英企業などから外国人を迎えた事例はあった。だが、意思疎通がうまくいかずに生え抜き日本人に結局はトップが戻った。外国人の能力を最大限生かすのは実は、難しい。
 重要なのはだれがトップになっても力を引き出せるようガバナンス(企業統治)改革を怠らないことだろう。ガラパゴス化しがちな取締役会のおり方を吟味し、意思決定に携わる経営幹部はみな、透明性の高いルールの下で「世界」を基準に選ぶのが重要だ。
 日本人社員の教育も見直しが必要になる。自動車も電機も医薬品も世界需要に占める新興国の割合は6~7割に達する。日本の視点で世界戦略を的確に考えるのは不可能になり、経験・人脈づくりの舞台を今まで以上に世界に求めないといけない時代になった。(日経2013.12.01)

2013.12.02