本格的なビッグデータ活用の時代へ

 ビッグデータの利活用が広がっている。政府レベルでも個人情報やプライバシー保護など、ビッグデータ活用を後押しする環境整備が進んでいる。日本経済新聞社では12月5日、第2回「日経ビッグデータマネジメントフォーラム」(後援・経済産業省、総務省、データサイエンティスト協会、協賛・NEC、QUICK、シスコシステムズ、デル。日本-BM、日立製作所、富士通)を開催。ビッグデータを経営判断や業務効率改善に活用する事例が多く紹介された。その概要を紹介する。
IT・データ利活用による新産業創出に向けた我が国の取り組み
                                                           経済産業省情報経済課長 佐藤紀代志氏
ルールづくりで環境を整備 イノベーション創造に期待
 ビッグデータの利活用はいまや世界の潮流だ。日本でもすでに多様な業種で利活用が進み、成功事例も数多く報告されている。
 例えば、飲食業における業務効率化において、店舗で接客にあたる従業員にセンサーを付けその行動を計測したところ、接客に費やす時間が業務時間の5割程度に。過ぎないことが分かった。そこで、動線分析などの結果を踏まえ本来業務の接客時間を長くしたところ、経常利益率が10ポイント増加したという。
 消費者の行動・嗜好分析に活用しているケースもある。顧客の購買履歴に応じて割引クーポンを発券、来店頻度を高めたり、自社品購入へと誘導する試みなどが行われている。
 国が支援している医療分野でも、大きなチャレンジが始まっている。アルツハイマーの発症に至りそうな因子を集積し、アルツハイマー発症の可能性の大きい患者をあらかじめスクリーニングして初期段階から治寮できる道を開く手法の開発などだ。
 ビッグデータの利活用が広がれば、イノベーションが起きるのは間違いない。経済産業省ではIT(情報技術)融合による新産業剔出に至るまで、3つのステージを想定している。
 第1ステージではIT分野で新技術を活用し、ビッグデー夕が活用されることで新ビジネスが剔出される。第2ステージでは、既存産業のビックデータ活用による競争力の強化、新領域への進出が図られ、ITと既存産業の融合により新ビジネスが創出される。最終ステージでは、異分野の産業や社会システムの融合により新産業が生まれていく。例えば、エネルギーと自動車・交通システムの融合、医寮・ヘルスケアと農業の融合などだ。多様な分野でイノベーションが起きる。
 しかし、第3ステージに至るには、いくつかの課題を早急に解決する必要がある。日米の経営層のビッグデータに対する理解度は、米国の方がはるかに高い。利活用の状況をみても米国企業の9割がすでに開始しているのに対し、日本企業は3割にとどまる(JEITA&IDCJapan)。
 もちろん、これは民間事業者だけでなく、政府にも責任がある。実際、G8各国やアジアの成長国と比べ、規制・制度等の事業環境が整っていないといった調査もある。そのため現在、IT総合戦略本部を兩心に政府全体で環境整備に取り組んでいる。
その一例が、個人情報に関する課題だ。個人情報保護法があるが、それだけでは不十分というのが多くの国民の受け止め方だろう。特に今後は、組織を超えたデータの利活用も進む。個人情報保護法の施行時には想定していなかった事態が出現するだけに、新たなルールづくりが急務だ。
 こうした観点から経済産業省では、昨年度よりワーキンググループを立ち上げ、その議論を受けて現在は、「事前相談評価」の仕組みを試行中だ。消費者の視点に立った情報提供、同意の取り方などはいかにあるべきか。現在10社程度の事業者の協力を得ながら探っており、年内にも一定の方向性を打ち出す予定だ。
 政府レベルでは、総合的なルールづくりなど環境整備に力を入れている。2014年6月をめどに大綱で具体的な法律案を示し、15年1月の通常国会で個人情報保護法の改正に取り組むロードマップも、すでに発表している。ビッグデータを利活用しやすい環境を政府の責任として整備することで、民間の事業者には世界をリードしながらイノベーションを巻き起こしていただきたいと願っている。

 ビッグデータと企業の競争力 一橋大学商学研究科教授 神岡太郎氏
  経営者の理解が何よりも重要
 ITを用いた競争の枠組みにパラダイムシフトが始まっている。これまで多くの企業 においてITを用いた競争の枠組みにパラダイムシフトが始まっている。これまで多く企業において、ITはそれを設計・管理するIT担当者の課題だった。それに対して今日では、ITを利活用するユーザーがその″主役″となりつつある。ビッグデータの利活用はその典型だ。ユーザー側かITをいかに利活用し、企業競争力の強化につなげていくかが問われている。
ビッグデータの利活用を持統的な競争力につなげるためのポイントは少なくとも2つある。―つはデータを分析することに満足するのではなく、ビジネスとして新たな価値を生み出すここと。もう1つは、データを組織的に活用することで差別化に結びつけることだ。
 局所的な利活用だけでは、何よりもすぐに他社にまねをされる。豊富なデータが利用可能になり、優秀なデータサイエンティストを採用し、強力なツールを導入すれば、差別化できるというものではない。企業の様々な活動をデータの効果的な利活用と有機的に結びつけ、そこから価値を生み出せるように企業の仕組みを構造転換していくべきだ。当然このような構造転換には経営サイドの関わりが不可欠になる。単なる技術としてではなく、競争力の源泉としてビッグデータを理解することが重要だ。(日経2013.12.24)

2013.12.24