海外M&A隆盛期に3兆円に倍増4~9月、円高追い風に

日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が4~9月、前年同期比2.2倍の約3兆円に膨らんだ。グローバル企業だけでなく内需型や中堅企業まで買い手が多様化しており「M&Aブーム」の様相となりつつある。日本は欧州不安の余波が軽微で買収資金の調達環境はなお良好。円高も買収には追い風となり、収益環境が不透明感を増す中でも企業は新興国などへの成長投資に打って出る構えを崩していない。
4~9月の海外買収は件数も236件と3割増えた。金額は直近では2008年4~9月以来の多さになる。海外買収は過去1980年代のバブル末期やITパブルの00年前後などにも増えたが、同様の盛り上がりの兆しが見える。
背景には景気の長期低迷や人口減少など日本経済の閉塞感がある。買収に乗り出す企業は「新興国など海外の成長を取り込まなければという危機感」 (メリルリンチ日本証券)で共通。東日本大震災後の政治の混迷も企業の背中を押した。

新興国など照準

無借金経営を続けてきた武田薬品工業は新興国などへの販路拡大を狙い、あえて多額の資金を借り入れてスイスの製薬大手を買収。グローバル企業に切迫感が出てきたうえ、買収に踏み切る企業の幅が広がっているのも足元の特徴だ。
内需型では住生活グループが国内新築需要の縮小に伴い海外展開を強化。イタリアの大手建材メーカーを630億円で買収する。地図のゼンリンがインドの同業に出資するなど、中堅企業も海外に活路を求める。
企業がこぞって海外買収に乗り出す動きは今後も続きそうだ。戸田建設は7月、フィリピンに現地法人を設立。国内企業の海外移転需要に対応するほか「必要に応じ現地建設会社の買収も検討する」 (井上舜三社長)

3メガが専門部署

世界経済は不透明感を強めているが、日本企業の海外買収を取り巻く環境は良好だ。有利子負債を手元資金が上回る「実質無借金」企業は上場企業全体の5割に迫り、手元資金は豊富。円高に加え、海外企業の株価が下がっていることも買収資金を抑える。
海外企業と比較しても相対的に有利だ。「国内の銀行はM&A資金の提供意欲が強い一方、欧州債務危機などを受け海外金融機関は貸し出しの条件が厳しくなりつつある」(外資系証券)
3メガ銀行はM&A融資の専門部署を相次いで設置。国内拠点で個別対応していたM&A融資を本店の専門部署で集中的に手掛け、資金需要を取り込む。政府の円高対策では国の外国為替資金特別会計を活用し、日本企業の海外M&Aを促す資金枠を邦銀に設けることも盛り込まれた。
ただ過去には「高値づかみ」などで積極策が裏目に出た案件もある。文化の違いから海外企業の管理がうまくいかないケースも多い。ブーム期にはこうした失敗が起こりやすく、慎重な買収判断も課題となる。

4~9月の日本企業の主なM&A(金額は概数)

新興国市場を開拓:
武田薬品 買収先 ナイコメッド(スイス)
金額1兆1100億円
内容:スイスの製薬会社。東欧などへ本格進出狙う
成長分野を強化:
東芝     ランディス・ギア(スイス)
1900億円(産業革新機構と共同)
次世代電力計の世界最大手。スマートグリ
ッド事業を強化
世界シェアの拡大:
日清紡HD    TMD(ルクセンブルク)
450億円
ブレーキ用摩擦材の世界2位。買収で世界首位に
内需企業の海外展開:
住生活グループ  パルマスティー(イタリア)
630億円
イタリアの建材大手、日本の住宅市場の低迷に対応
王子製紙     フィブリア・セルロース(ブラジル)
240億円
フィブリア社の感熱紙事業を買収。日本の紙需要の伸び悩み補う
中堅企業も海外買収:
アイカ工業    ボンベイ・パーマ・トレーディング(インド)
20億円弱
ボンベイ社からメラミン化粧板事業を買収。インド市場に参入
ゼンリン     CEインフオ・システムズ(インド)
未公表
インドの地図最大手。一部出資し、カーナビ技術などで提携