変化への適応力いまこそ

世界経営者会議2007

原油価格の高騰、米住宅ローン問題に始まった金融危機など、企業を取り巻く環境は一段と厳しさを増している。経済のグローバル化により、経営リスクは世界の企業を一瞬にして襲う。その中で成長を続けるには、変化に適応する企業力が求められる。

1.変革期こそ人材要に

日米欧の経営者たちの多くは、技術やビジネスモデルの変革期こそ企業が成長の波に乗る好機と捉えている。ただ、画期的な技術の開発や顧客ニーズをくみとるマーケッティングを担う人材の育成は一朝一夕にはできない。人材こそ企業活力を生む源泉だと見ている。

  • ユーザー志向でイノベーション
    フィリップス社長兼CEO ジェラルド・クライスター氏

    世界規模で真の競争力をつけるために企業は変革しなければならない。通信やITだけでなく製薬なども含め様々な分野で業界を超えて影響を及ぼしあう大きな変化が起こっている。エレクトロニクス業界では部品から最終製品まで一貫して手がける垂直統合型のビジネスモデルは通用しなくなった。当社は競争優位性を持たない分野の自社生産は徐々にやめている。事業構成を完全に組み替えた。しかし、事業内容の再構築だけでは会社の変革には不十分だ。以前、イノベーションは先端技術が主導するものだったが、今はユーザーの視点が主導するよう発想転換した。人々が何を欲しているか、研究開発の早い段階から消費者の視点を取り入れている。
    イノベーションとはアイディアとそれを創造する人に投資することだ。技術志向でなく、利用者や市場の方を向いた企業になるために組織も見直した。競争によって学んだのは、自分たちのことよりも顧客のことをもっと考えるべきだと言うことだ。顧客のニーズを見極めそれを満たし、顧客やすべての人を中心に据えることがグローバルな競争力を得るための最善で最速の道だ。
  • 現場の執行力を高め、開かれた意思決定
    JPモルガン・チェース会長兼CEO ジェイミー・ダイモン氏

    グローバル競争を勝ち抜くためのカギは、戦略ではなく業務を執行する力。執行力の伴わない戦略はまやかしだ。執行力を発揮するには、現場を重視する人材・組織が大切だ。
    米国の銀行は、今までM& Aを繰り返し、複数の巨大銀行が誕生した。ただ規模の大きさは決して利点にはならない。より安価でよいサービスができるかが問われる。そのためには経営陣が事業の詳細を常に把握している必要がある。失敗する企業は本社が現場を軽視している。本社が現場の要求を面倒とみなしたら危険信号だ。現場の人材が顧客に対応してくれるからこそ、本社が機能する。本社病の治療薬は本社勤務を長くせず、現場に人材を送り出すことだ。傲慢で官僚的な大組織は弊害が大きい。
    経営の意思決定には多くの人材が関与すべきだ。CEOである私の仕事は、経営判断を下すことではなく、そのお膳立てをすることだ。要は、私よりも現状を把握している人材を集め、意見を交えながら分析すれば、おのずと正しい答えが見えてくる。オープンな意思決定プロセスが重要だ。
    能力主義も大切だ。周囲が能力を認める人材が自然にトップに抜擢されるべきだ。私は献身的に働いてくれた人物を降格させたことがある。この人物は現状では大した仕事をしてはおらず、現在の地位は身分不相応だった。放置したら他の従業員に対して裏切りになると判断した。ただ能力評価は単純にどのくらい稼いだかではなく、仕事に対する倫理観、情熱、資質、誠実さなど多面的に評価しなければならない。

2.研究開発 革新促す力に

イノベーション(技術革新)は企業が成長する原動力であり、収益環境の変化に対応する能力でもある。独自の研究開発体制がイノベーションを促す。

  • 挑戦者の気概を持って 失敗・リスクを評価
    ノキア社長兼CEO オリペッカ・カラスブオ氏

    急激に時代が変化する中では、ビジネスモデルも一夜にして大きく変貌を遂げる。携帯電話産業でも急速な変化が進んでいる。携帯電話産業によって経済が成長し、社会的な条件も前進する。特に発展途上国においては実際に世界を変えることが出来る。発展途上国では百人当たりの携帯電話保有数が10台増えるとGDP成長率を0.6%押し上げる効果があるという。一方で音楽CDの売り上げが急速に減っている。いまや消費者はインターネットで音楽を購入するようになった。こういった変化は大規模に起こり、既存の企業は自らビジネスモデルを再構築しなければならない。
    ノキアが携帯電話市場で世界シェア首位を獲得できた根底には特徴的な社風がある。
    第一に、技術革新は技術部門や開発部門のみに占有されているわけではないということだ。技術革新の文化は我々の企業組織の全体にわたって存在しており、当社の革新的な価値として全ての従業員によって支えられている。
    第二に、当社は失敗を受け入れる社風を作ってきたと言うこと。失敗しても、早急に過ちを繰り返さなければ受け入れられる。そうした土壌が無ければ、真のイノベーションは出てこない。
    第三に、我々は挑戦者の気概を持っている。ビジネスにおいては多少偏執的であってもかまわない。自己満足や競争相手をまじめにとらえないといった落とし穴に陥ることがないからだ。
    加えて、リスクの反対側に機会があることも言及したい。リスクをとらなければ、かえって企業の将来を限定して決め付けてしまうというリスクを冒す。我々経営者はリスクを評価する責任がある。また、大きな変化を予測し、指導し、促進する責任を引き受けなければならない。そうしてはじめて、より優れた価値のための変革を作り出すことができる。
  • IT化を加速する触媒に
    セールスフォース・ドットコム会長兼CEO マーク・ベニオフ氏

    インターネット経由で業務ソフトを貸し出す業務モデル「SaaS(サース)」の草分けとして知られる。サースは全ての企業に新しいITの利用法を提案する。パソコン中心からインターネット中心に変革を促す。サースを使えば自前でサーバーやソフトを買う必要がなく、直ぐに業務ソフトを利用できる。顧客はITインフラに余計な気を使わず、ビジネスの革新に注力できる。
    当社はITの変化を加速する触媒となる。パソコン中心のコンピュータ利用法をインターネット中心へと変換するのを手助けする。これまでIT企業は顧客にテクノロジーを売り込むことばかり考えていた。でも、こうしたやり方は早晩通用しなくなる。他のIT企業もビジネス上の価値の提供により力を入れるべきだろう。
    競合相手は、マイクロソフトやSAPといった従来型のソフト会社ではなく、サースに的を絞ったベンチャー企業がライバルだ。米シリコンバレーでは、ほとんどのベンチャーは従来型ソフトではなくサースを開発している。そうした意味では当社はまったく新しい産業を創出したと自負している。
    パッケージ販売される従来型ソフトはパソコン中心時代の遺物だ。将来も使われ続けるがそこには新たな技術革新は生まれなくなる。現在のメーンフレームとまったく同じ状況だ。サースは単なる流行ではなく、次のIT利用の本流だ。2011年には業務ソフトの25%はサース形式で提供されるとの予測もある。

3.外から自社見る眼重要

大規模な構造改革に挑戦するなど経営トップとしてリーダーシップを発揮することを主張する。欧米の経営者に共通しているのが「アウトサイドライン」の視点だ。まず市場や顧客動向に照らし合わせながら何をすべきかを考えると言う視点で、企業を変革するうえでも必要な視点だ。一方、日本の経営者はいきなり自社の方向性を打ち出していく「インサイドアウト」の傾向がまだ強い。特に国内の経営者にとってはマインドのグローバル化がポイントになる。

4.組織強くする競争不可欠

イノベーションや人事施策や社員の士気高揚策といったソフトイシューと共にコンピティションを非常に前向きに捉えていた。日本企業の課題はコストダウンから成長に変わったが、成長するにはイノベーションとコンピティションが不可欠なのだ。イノベーションを「変化する能力」と定義することもできる。市場の変化に応じて新しいやり方を見つける能力と言い換えられる。自社の技術に固執せずに、他社の長所を取り入れながら、新しいものを生み出していく。
競合他社とのつばぜり合いがより激しくなる状況をあえて肯定的に捉えるのはなぜか。それは競争が組織をたくましくしてくれることを知っているからだ。競争を避けていては組織は弱体化して淘汰される。日本の経営者はこのことを強く認識しなければならない。