クリエイティブ・クラスの世紀

新しいグローバル競争の時代である。それは才能を獲得するという競争で、次の数十年で世界を確実に変えてしまうほどの意味あいを持つ。もはや天然資源や製造技術力、軍事力、科学技術による経済力の優位性によって才能を集めることはできない。現在、国際競争力という言葉はクリエイティブな才能を集め、引き寄せ、引き止める力と言う意味が中心となっている。卓越した製造業から先端科学技術まで、経済のグローバル競争の主導権を握るための要素は、すべてこうした力に依拠しているのである。いまや新しいグローバルな才能獲得競争の時代に入った。

1.才能獲得競争の時代

アメリカは、世界中から才能が集まった結果として、かつては先端的で最も収益性の高いクリエイティブな産業が集積していた。しかしその繁栄の源は世界中に広がり始めている。アイルランド、フィンランド、カナダ、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランドといった国々であり、そこでは高度な教育によってクリエイティブな人間を育て、携帯電話からコンピュータ・ソフトウェア、大ヒット映画までの最先端の製品を創造している。
世界のリーダーになるためには、最先端を行くクリエイティブな人々の心を魅了し続けなければならない。なぜなら革新、創造、経済成長は、才能が向かうところにいくものだから。

2.アメリカはもはや最先端国ではない

世界のクリエイティブ・クラス合計数は、1億人から1億5千万人。アメリカはその20%~30%相当で一番。しかし全労働力の比率で見ると世界で11位。クリエイティブ・クラスは、アイルランド、オーストラリア、ベルギー、オランダで、全労働力の約3分の一を占めている。次の6カ国、ニュージーランド、エストニア、イギリス、カナダ、フィンランド、アイスランドでは、全労働力の約4分の一になる。
グローバルな経済競争力に関する総合的な指数、グローバル・クリエイティビティ・インデックス(GCI)では、経済成長を担う三つのT、すなわちテクノロジー(技術)、タレント(才能)、トレランス(寛容性)を基準に、国のクリエイティブな競争力を測定。これによれば、アメリカはスェーデン、日本、フィンランドに次いで第4位になる。スイス、デンマーク、オランダ、アイスランドは、アメリカと僅差であるばかりでなく、間もなく上位に食い込むだろう。
クリエイティブな才能の獲得を国同士が競っているかに見えるが、実際はクリエイティブな人々が選んでいるのは都市である。ケンブリッジかシリコンバレーか、ストックホルムかバンクーバーか、シドニーかコペンハーゲンか、と彼らは考えているのである。
より多くの人々が住み働く場所を地球規模で選び、その場所の文化、政治、経済の自由を発展させているのだ。
上記の都市のほか、もうひとつのグループの都市がある。バンガロール、テルアビブ、シンガポール、台北、北京、上海のような地域。この地域は外資の技術系企業を呼び寄せ、高等教育システムを強化し、研究開発に精力的に投資して、自身の文化、ライフスタイルの幅を拡げている。

3.人々がいるところへ仕事が動く

世界経済の重要な要素が、もはや商品やサービスまたは資金の流れではなく、人材の獲得競争になってきたので、人々をひきつける能力はダイナミッックさと繊細さを特徴とする。クリエイティブ経済において、世界的な新しい中心地はすばやく出現する。かつての成功者はその地位を追われる。広く開かれたゲームで、その戦いのフィールドは日々刷新されている。
企業は常に最も優秀な人材を探してきた。これまでとの違いは企業のある場所に人が集まるのではなく、才能が集まる場所に企業の施設を建てなければならないことだ。多国籍企業では、グロバールイノベーションにおいて才能は最大の磁石であった。いま、ダブリンからウェリントンまで、世界のそこかしこで「人々がいるところへ仕事が動く」現象を見ている。経済の長期的成功は、人間一人ひとりのクリエイティブな可能性の強化にかかっている。個人も個人としてのクリエイティブな才能を常に磨いて、企業が求める職種の資格要件を満たす価値ある人を目指したい。個人主体、本当に生きる意味が追求できる時代になった。自分次第だ。

4.クリエイティビティの重要性

現代は、人間の才能と想像力の集積であるクリエイティブ経済へと、すべては日々新たに変化している。経済を構成するものが根本的に移り変わることで、私達の働き方、時間、ライフスタイル、レジャー、帰属するコミュニティの基準、個人的・家族的アイデンティティも大きく変わってきている。ここ十数年の経済と社会における一連の段階的変化は、基本的に新しい働き方や生き方を生み出してきた。これからはクリエイティブな時代になる。経済を動かすのは、技術や情報ではなく、人間のクリエイティビティなのである。
あらゆるクリエイティブな仕事のペースや密度が爆発的に進化している。
多くの人は給料が下がっても、刺激的な仕事をする機会と「新しい何かを創り出す」ことへ参加していることに、何度となく喜びを見出している。つまり人間はクリエイティブな仕事が好きなのだ。それが人間なのだ。

5.クリエイティブ職に携わる人の増加

いまやより多くの人々がクリエイティブな仕事で生活するようになっている。建築家から美術専門家、エンジニアや科学者から芸術家、作家、上級管理職、プランナー、そしてアナリストから医師、金融・法律の専門家まで、高度にクリエイティブな職に就く人の数は、21世紀のなって目覚しく増えている。
アメリカでは現在、およそ4千万人、労働者全体の約30%がクリエイティブ産業で働いている。実際アメリカは伝統的なブルーカラー労働者よりも、クリエイティブ産業に従事する人のほうが多い。
経済面ではクリエイティブ産業が最大の富を算出している。経済をクリエイティブ、製造、サービスと三つの産業に分け、それぞれを雇用者所得で比較すると、クリエイティブ産業はアメリカの全雇用者所得のほぼ半分を占めている。それは約2兆ドルであり、製造業とサービス業を合わせた金額とほぼ同じである。
アメリカでは、過去10年間で最大の雇用増加があったのは、対人スキルやEQが必要な職業(例えば看護師や弁護士)と、デザイナー、建築士、写真家などの想像力とクリエイティビティを必要とする職業である。しかし、美容師の雇用の増加に注目すればわかるように、新しい職業すべてが高学歴や芸術的な才能を必要としているわけではない。各個人は才能を高める努力をすれば、よりよい生活を築けるだろう。
今後成長が期待される職業は、二つの分野しかない。「専門的思考」と「複雑なコミュニケーション」である。

  • 専門的思考:
    クリエイティビティや専門的な問題解決力が必要な職業。新しい製品のデザイン、疾病診断、新鮮な材料を使った創作料理がこの分類に入る。この種の職業は、ここ十数年急激に増加しており、従事者の所得もかなり上昇している。今後も増加が予想される。
  • 複雑なコミュニケーション:
    デザインやイノベーションといった分野、face to faceで相手にモチベーションを与え管理するといった分野の所得の高い職業。この種の職業も急速に増えており、所得も上昇している。

これらは、要求される技術においても仕事のタイプにおいても、まさしくクリエイティブ・クラスの仕事と定義されるものだ。

6.すべての人間はクリエイティブである

もともと、人間一人ひとりがとてつもないイノベーションを生み出す可能性を持っている。それは、人間が進化適応のなかで先天的に持っている能力の副産物なのだ。すなわちクリエイティブ資本は無限の資源なのである。
競争の激しい場所は産業の多様性だけでなく、人間の多様性により多く注目すべきなのだ。
クリエイティビティは現代の最も重要な富の源泉であり、人間一人ひとりがクリエイティブな仕事に関わることに価値を置く。クリエイティブ経済は、魅力的な変化を未来にもたらすだろう。精神的にとまらない労働からの解放だ。繁栄のための自由と資源が与えられ、社会と多数の人々の富や経済は成長し、それぞれが人間としての可能性を完全に発揮できるようになるであろう。
都市は人的資本を増加させる機能をもっている。都市の役割を人的資本の集積と増大と考え、人的資本が多ければ多いほど都市の成長は速まり、その都市化がイノベーションと生産性を増加させる鍵となるというものだ。
ケンブリッジ、シリコンバレー、ストックホルム、バンクーバー、シドニー、コペンハーゲン、あるいはバンガロール、テルアビブ、シンガポール、台北、北京、上海のような革新都市では、開放性、多様性、寛容性といった要素を持っている。まさにクリエイティブな人々が持っているのと共通の要素だ。

「クリエイティブ」が国境を越えて都市と都市、人と人を新たに結びつける。未来は、そこにある。