フラット化する世界:個人のグローバル化

世界のフラット化で市場経済の仕組みが変わった。それは人々の働く形を変え、価値観をも変えていく。個人の選択、意思決定の自由度が高まる。同時に組織が個人を支えるセーフティネットは崩れる。個人を選択するかあるいは組織か、いずれも光と影がつきまとう。
トーマス・フリードマンの「フラット化する世界 The World is flat.」を参考にして、経済の大転換と人間の未来を考察してみたい。

Ⅰ. World is flat.

1.地球はフラットだ。

インフォシス・テクノロジーズのナンダン・ニレカレ。インフォシスはインドIT業界の至宝、CEOのニレカレはインド産業界で最も尊敬されている思慮深い船長だ。
2000年頃、「知識労働や知識資本をどこへでも配達できる土台ができあがった。切り分けて配達、配布、生産し、ふたたびひとつに纏めることができる。それによって、我々の仕事、ことに頭脳を使う仕事の手順の自由度が格段に高まった・・・いま、バンガロールであなたが眼にしているのは、こうした物事の一大集約なのです」
このバンガロールで最高の理工系大学で学んで現代最高の科学技術を身に付けたインドで最も優秀なエンジニアの口から、地球は平らだという意味の言葉を聞かされた。-全世界のサプライチェーンを結ぶ会議に使えるあのスクリーンと同じようにフラットだというのだ。さらに興味をそそられるのは、そういう変化を良いことだととらえていることだ。我々がこの地球を平らにしたのは、人類の発展にとって新しくて画期的な出来事であり、インドや世界各国にとって素晴らしい好機だというのだ!「世界は平らである。」
いまだかつてなく多くの人々がリアルタイムで共同作業し、(コラボレート)、あるいは競争している。地域的にもいままでよりずっと広い範囲の人々が、従来よりも多種多様な作業を行っている。しかも、コンピュータ、電子メール、光ファイバー・ネットワーク、テレビ会議、機能的な新ソフトウェアを利用することにより、これまでの歴史には見られなかったような平等な立場でそうした作業を行っている。世界のフラット化は、地球上の知識中枢を全て接続して、ひとつの全地球的なネットワークにまとめ、企業・コミュニティ・個人による繁栄、革新、共同作業の素晴らしい時代の到来を招くかもしれない。
グローバリゼーションは、全く新しい段階に入ったのだ。コロンブスが航海に乗り出し、旧世界と新世界の間の貿易が始まった1492年から1800年頃までが、最初の時代、グローバリゼーション1.0で、国家と腕力の時代だった。そこにおける変化の重要因子、世界統一の過程を推進する原動力は、物理的な力――腕力、馬力、風力、さらに後世では汽力(蒸気動力)―だった。このグローバリゼーション1.0の重要な課題は、自国をグローバルな競争やチャンスをどう適合させれば良いか?自国を通じてグローバル化し、他の人々とうまく力をあわせるにはどうすればよいか?
次の大きな時代区分、グローバリゼーション2.0は、大恐慌と二度の世界大戦によって中断したものの、おおまかにいって1800年から2000年まで続いた。グローバリゼーション2.0における変化の重要因子、世界統一を進める原動力は、多国籍企業だった。多国籍企業は、市場と労働力を集めてグローバル化した。共同出資によるオランダやイギリスの会社と産業革命の発展が先鋒をつとめた。この時代、前半の世界統一は蒸気機関と鉄道による輸送コストの軽減が、後半は通信コストの軽減―電報、電話、パソコン、人工衛星、光ファイバー、初期にワールド・ワイド・ウェブ-が原動力になった。この時代の重要な課題は、自社は世界経済にどう適合するのか?そうやってビジネスチャンスを自社のものにするのか?自分の会社を通じてグローバル化し、他の人々とうまく力を合わせるには、どうすれば良いか?だった。

2.世界中の個人がグローバル化した

世界中で壁が崩壊しはじめ、統一-とそれに対する反動―が、全く新しい段階に入った。
2000年前後にまったく新たな時代、グローバリゼーション3.0に入った。世界をSサイズからさらに縮め、さらに世界の競技場を平坦にした。1.0の原動力が国のグローバル化であり、2.0の原動力が企業のグローバル化であったのに対し、3.0の原動力は、個人がグローバルに力を合わせ、またグローバルに競争を繰り広げるという、新しく得た力なのである。また、個人や小集団が簡単にむらなくグローバル化するのを可能にしたのは、「フラットな世界のプラットフォーム」という現象なのである。
世界中の人々がある日、突然、個人としてグローバル化する絶大な力を持っていると気づいた。世界中の個人が競い合っているのを、これまで以上に意識しなければならなくなり、しかもただ競い合うのではなく、協力する機会もまた飛躍的に増えた。その結果、誰もがこう自問できるようになったし、また自問しなければならなくなった。私は個人として、現在のグローバルな競争やビジネスチャンスのどこに割り込めば良いのか?一人で他の人々とグローバな共同作業をするには、どうすれば良いのか?
グローバリゼーション3.0がこれまでの時代と全く異なるのは、サイズを縮小し、世界をフラット化し、個人に力を与えたことだけではない。もうひとつの違いは、グローバリゼーション1.0と2.0の牽引力は欧米の個人やビジネスだったという点だ。しかし時代が進むにつれて、この傾向はどんどん薄れていった。なぜなら世界をフラット化して縮めてゆくグローバリゼーション3.0は、日増しに欧米の個人だけでなく多種多様なー非欧米、非白人―個人の集団によって動かされるようになっている。フラットな世界のあらゆる国々の個人が力を持ち始めている。グローバリゼーション3.0によって、多くの人々がゲームに直接参加できるようになり、あらゆる肌の色の人間が役割を果たすようになっている。

3.専門家は付加価値を持っているか

インドのアウトソーシング会計士:創意工夫など殆ど必要ありません。アメリカでなおも成功したいと思う公認会計士は、合法的な節税、漸近を軽くする手段、顧客との人間関係の管理など、複雑で創造的な戦略の構築に焦点を絞る必要がある。
会計士という職業は現在、変容しつつある。過去にとらわれて変化に抵抗する会計士は、コモディティ化の深みにはまってしまう。リーダーシップ、顧客との関係、独走力によって勝ちを生み出す会計士は、顧客との関係を強化できるだけでなく、業界をも変革するだろう。
医師、弁護士、建築家、会計士などの知的職業に携わるアメリカ人は、人間同士の微妙な触れ合いに精通しなければならない。なぜならデジタル化できるものは全て、もっと賢いか、安いか、あるいはその両方の生産者にアウトソーシングできるからだ。だれであろうと、自分たちの付加価値が何であるかを、見据える必要がある。公認会計士の資格を取得しても大手会計事務所では裏方の事務作業に携わるに過ぎない。

4.イノベーションのグローバル化

欧米の多国籍企業一社が開発生産サイクルを全て自社資源でまかなうという旧来のモデルは消滅する。欧米の企業はいよいよ重要な研究開発作業をインド、ロシア、中国にアウトソーシングするようになるだろう。

Ⅱ. 世界をフラット化した原動力

1.ベルリンの壁の崩壊と創造性の新時代

自由主義経済へ向かう道をフラット化しただけでなく、インド、ブラジル、中国、旧ソ連の何十億と言う人々にそれまで抑えられていたエネルギーを放出させた。

2.フラット化することで誰もがプレーヤーになった

水平な競技場が完成し、西側諸国の企業と個人がもっぱら中心となって素早く順応し始めると、それまで競技場から締め出されていた30億人があらゆる人たちと自由にプラグ&プレイができるようになったことだ。中国、インド、ロシア、東ヨーロッパ、ラテンアメリカ、中央アジアが急速に力を得始めるようになった。
このような新たな競技場に新たな人々が登場し、水平の共同作業のためのプロセスと仕組みを開発することこそ、21世紀初頭のグローバルな経済と政治を形作る最も重要な力だ。検索エンジンやウェブを通じて何十億もの生情報を満載したページにアクセスできる。地球上のあらゆるところに次世代のイノベーションが起きる。
とてつもない速さで起きている。世界がいったんフラット化してしまい共同作業の新しい形態が誰にでも手に入れるようになったいま、仕組みやプロセスやスキルを最も速く身につける者が勝者になるだろう。こうした新参のプレーヤーは古くからの制約に囚われることなく、後発者のメリットを活かすこともできる。
20年ほど前からビジネス関係のマスコミは、「IT革命」とやらについてかまびすしく書き立てている。これはプロローグに過ぎない。本当のIT革命はいまから始まる。
開演の辞を述べたのは、HPのカーリー・フィオリーナだった。ITバブルとその崩壊は[始まりの終わり]にすぎないと、2004年の講演で彼女は語っている。テクノロジーにおけるこの25年は、準備運動に過ぎなかった、と告げた。「いまこそ私たちは、メインイベントに突入しようとしています。つまり、テクノロジーがビジネスのあらゆる局面、人生と社会のあらゆる局面を完全に変貌させる時代が訪れます」

3.大規模な変化が起きている

世界が付加価値を生み出すための垂直なー指揮・統制―システムから、バリューが自然と生まれる水平なー接続・共同作業―システムのモデルに移行し、壁と屋根と床が同時に吹き飛ばされると、多数の重大な変化が一度に起きているのを科学者も認めるようになった。しかし、これらの変化は、ビジネスのやり方だけに影響を及ぼすのではない。あらゆるものに波及してゆくだろうー個人、コミュニティ、企業がいかに組織化するか。企業やコミュニティがどこで立ち止まりどこから動き始めるか。

4.ネットワークが新しい規範を確立する

我々を特徴付ける壁や屋根や床は今後ブレンドされたモデルになるだろう。具体的には従来の近代国家、政府、団体、報道機関が、新興のネットワークやバーチャル・コミュニティや企業と協力し、フラットな世界で活動するための新しい規範や境界を徐々に作り上げなければいけない。

5.指揮・統制中心から共同作業・つながり主体へ

世界がフラット化すると小市民に大きなことができるようになってヒエラルキー平均化されるだけでは終わらない。大人物に些細なことができるようになり、そのこともヒエラルキーを平らにする。上司が自分の仕事と部下の仕事両方をこなせるようになる。ネットワーク志向の共同作業が進む。

6.個人のアイデンティティの衝突

フラットな世界では、個人のアイデンティティも多面的に捉える必要がでてくる。消費者、従業員、国民、納税者、株主、といった様々なアイデンティティがぶつかり合い、先鋭的になる。チャネルが自分を接続するのを阻止することなく技量を高め、自分と自分の社会で大きく複雑なパイの分け前をものにできる事業に投資するのが、成功への道なのである。

7.無敵の民に、新しいミドルクラスの仕事

グローバリゼーション3.0では、個人がグローバルに栄えるか、せめて生き残る方法を考えなければならない。それには科学技術の技量だけでなく、かなりの精神的柔軟性と努力する気持ち、変化に対する心構えがなければならない。
グローバリゼーションは産業のグローバル化から個人のグローバル化に移った。どんな仕事をやっていてもいまの人たちは自分のやっていることがグローバルに結びついているのを感じ取っている。
フラットな世界で個人として栄えるには、自分を無敵の民にする方策を見つけなければならない。「自分の仕事がアウトソ-シング、デジタル化、オートメーション化されることがない人」「代替可能な仕事と代替不可能な仕事の二つしかない」簡単にデジタル化、オートメーション化、外国に移転できる仕事は、代替可能な仕事だ。フラットな世界の最も顕著な特徴の一つは、たくさんの仕事が代替可能な仕事になったことだ。ブルーカラーの向上労働だけでなくホワイトカラーのサービス業もそうなった。

8.フラットな世界の無敵の民は、三つに大別される。

1)かけがいのない、もしくは特化した人々
マイケルジョーダン、マドンナ、エルトンジョン、かかりつけの脳外科医、国立衛生研究所の一流のがん研究者。誰にもまねできない、自分たちの商品やサービスのグローバル市場を持ち、グローバルな報酬を自分たちで支配できる。
2)偉大な合成役:シンセサイザー
付加価値は誰にも負けない合成能力にある。どんな組織でも点(ドット)人間と全体像人間(点人間をつなぐ役目)が必要になる。顧客のために合成を作り上げる能力のほうに動いている。
CIO(最高情報責任者)という言葉は残るだろうが、そのIは情報ではなく統合(インテグレーション)を意味する略語になる。ITはビジネスのあらゆる部分に浸透しているはずだから、もはやテクノロジーの分野ではなくビスネスプロセス統合の分野に移行する。
偉大な説明役:
異種のものをまとめる優秀な合成役が増えると、管理者、ライター、教師、プロデューサー、エディターが必要。いずれも説明を得手としている。
3)偉大な適応者:アダプター
IT産業には特化した社員よりも適応能力が高い多芸多才な社員を求める傾向が強くなっている。何でも屋(バーサタイリスト)が重用される。「キャリア開発計画の合言葉」「スペシャリストは技術力は高いが視野が狭く、仲間内では認められるような専門技能に長けているが、分野を離れたところではあまり高く評価されない。何でも屋は、持ち場や経験の範囲が徐々に拡がるのに合わせて技術力を応用し、新たな能力を身に付け、人間関係を築き、全く新しい役割を担う。
いまほどイマジネーションが大切である時代も一度もなかった。フラットな世界では、共同作業のさまざまなツールが誰にでも手に入る日用品(コモディティ)になっているからだ。自分のコンテンツを創れる力を多くの人々が持っている。ただ、けっしてコモディティ化されないものがたったひとつある。イマジネーション力でどういうコンテンツを創ろうかと想像することだ。