リスク恐れず世界で商機得る人と組織に

日本経済新聞

日本企業の経営者や従業員は世界で勝ち残っていけるだろうか。
日産自動車のカルロス・ゴーン社長はこの2年で60件もの国際提携を実現した。独ダイムラーと小型車開発で、ロシアやインドのメーカーとは両国向けの戦略車で手を結んだ。
ブラジル出身で、母国語はポルトガル語。英語とフランス語も自在に操り、世界中を動き回る。日本の企業には、これほどグローバルに活躍できる経営者はいないだろう。

20億人の市場をつかめ

日本企業は岐路に立つ。人口減など国内市場の限界に直面し、海外に活路を求めても、現地での意思疎通や経営の能力に積む人材はあまりいないと気づかされる、結果的にグローバルな変化の波に乗り切れない。
ファーストリテイリングや楽天は2012年から英語を社内の共通語にする。世界の需要を追う経営へと脱皮し、売上高を現在の7~11倍に増やす計画だ。その成否は、10年後に20億人に達するというアジアの中間層の需要獲得にかかる。カギを握るのは、先兵となる意思疎通能力のある人材の確保と育成だ。
アジアの成長を自社の今後の成長にどう結び付けるかが日本企業の共通課題だが、新興国市場では韓国や中国との競争も激しい。
日本の代表企業も、今やアジアのナンバーワンとはいえない。昨年の粗鋼生産量で中国の鉄鋼メーカー3社が新日本製鉄を抜き、韓国のポスコも新日鉄より上位だった。日用品ではユニチャームが新興国市場への進出で先んじたが、同社の株式の時価総額は新興メーカーの中国・恒安国際集団に逆転されている。
自動車では、独フォルクスワーゲン(VW)のヴィンターコーン社長が「もはや日本のメーカーには脅威を感じない」と語る。新興国市場に成長の重心が移ってから、日本企業の販売の伸びはパッとしないという意味だ。一方でライバル視するようになったのは韓国の現代自動車。中国や南米、アフリカで急速に販売を伸ばし、VWとぶつかっている。
グローバルな競争の構図は急激な変化を続けている。変化に取り残されないためには、迅速かつ的確に対応して意思決定できる人材。新たな成長市場に精通した人材が必要だ。
韓国では1997年のアジア通貨危機を機に業界再編を進め、各業種の大企業を1~2社に減らした。並行して進めたのが人材のグローバル化だ。サムスン電子は毎年、優秀な人材を世界各国に派遣して地域専門家を育て、人脈づくりや製品を売り込む原動力にしていった。
韓国は国全体が追い込まれた危機に直面して変革が進み、国も企業も一変した。「失われた20年」と言われる日本でも変化の兆しはある。
日立製作所は最近、海外勤務を経験せずに役員にはなれない決まりを設け、総合職の半分以上に海外経験させることを義務付けた。東芝は採用条件から日本語を外し、アジアから数十人を本社採用している。
だが、韓国の変化は企業カルチャーにも及ぶ。サムスン電子は「韓国で最も働きやすい会社」に選ばれている一方、1年で役員の半数が入れ替えられることも多い。役員の年間報酬は平均4億円。報酬も手厚いが責任も重く、成長のためにリスクをとるカルチャーを浸透させている。

照準を外に合わせる

日本は日本人の新卒一括採用、年功序列型の人事制度を真ん中に据えたままだ。リスクを取らない傾向が以前よりも強まり、これが日本の最大の弱点との指摘もある。人づくりのあり方で見直すべき点は多い。
米国ではIBM,GEなどが早い時期から幹部候補を、世界中で採用する従業員の中から絞り込み、帝王学を植え付ける体制ができている。
日本でも日産自動車、ソニーが似たシステムを採用しつつある。日産は社長直轄の人事諮問委員会を設け、数百ある幹部ポストの後継プランを作り、絶えず進捗状況を見ている。登用する人材の国債や性別は問わず、逆に幹部候補には出身国や地域を超えた人事異動も受け入れるよう求めている。
日本中心ではなく世界市場に照準を合わせ直す企業も少しずつ出てきた。旭硝子はガラス事業の本部をブリュッセルに移し、東京はアジアの本部にした。
日本たばこ産業(JT)は、旧JRナビスコから買収した海外子会社の日本人副社長に、JTの社長より高い報酬を払う。
日本の本社にいるだけでは世界の動きは見えない。グローバルに活躍できる人材を確保して激しい変化についていき、リスクを取って一歩前に出ていく企業に――。人事と組織の在り方を見直し、これからの成長の土台づくりを進めよう。