世界この先

前日銀総裁 福井俊彦氏
グローバル化、市場経済、民主主義・・・・・。これらの再生に必要な視点とは何か。

1.今回の金融危機を経て、世界経済の課題が鮮明になった。

1)1980年代以降の潮流変化が二つある。第一に市場経済への参入国が増え、新興国が大きな役割を果たすようになった。第二にIT化が進んだ。この二つが同時進行し、世界の経済や金融が急速に融合している。ヒト、モノ、カネ、情報が国境を超えて素早く動く。人々が同じ情報で動きやすくなるので、振幅の大きい経済に傾いている。

2)振幅の小さい経済をいかにつくりあげるか。それが今回の危機で宿題になった。市場メカニズムをうまく使い、経済の振れを抑える。地球環境、エネルギー、資源など、経済成長を制約する厄介な問題にも取り組む。国を超えるグローバルな枠組みで、最も適切な解を探る必要がある。

2.グローバル化が貧富などの格差を生むとの批判

1)地球の中での生存競争が激しくなり、人々が国境を超えて競い合っている。労働者の技術が同じなら、グローバル化の影響で世界の賃金が限りなく同じ水準に収斂する。経済学的には理解できる現象でも、一国の社会的側面からみると割り切るのが極めて難しい。だから政治的にうまく対処しなければならない。

2)グローバル化とIT化という大きな流れの中で。格差は必然的に生じる。その事実を冷静に受け入れながらも、各国が不合理で不公正な事柄を政治的に解決することが大事だ。
国内の基盤を他国よりも安定させないと、国際的な生存競争には勝てない。

3.国際的な意思決定の枠組みも変わる

1)米国は英国に代わって世界の軸になった。その米国が疲労困憊し、米自動車大手GMが破綻するところまできた。米国が急にへばってドル相場が下落するようなら、世界経済への負担も大きくなった。

2)米国に引き続き頑張ってもらいながら、疲弊部分をどこかが引き取らなければならない。潜在的な経済成長力が大きいのは新興国、特にアジア諸国だ。資本主義や市場経済の軸は徐々に、米欧中心の「西側」からアジア中心の「東側」に移っていく。東側も世界経済の運営責任を主体的に担うような体制を整備すべきだ。

4.アジア諸国の課題は

資本市場の発展が西側より遅れている。市場メカニズムを貫徹しなければならない。東側の貯蓄を資本に転化できるメカニズムがあれば、経済は力強く成長するだろう。資金が移動しやすい市場を東側に作るべきだ。信用度が最も高くなった市場の通貨が、アジアの基軸通貨になる。

5.日本の役割は

1)アジア諸国全体でみれば、産業資本主義の時代にさらに花が咲く。その中で市場メカニズムに最も慣れているのは日本だ。環境問題や資源問題の解決に努力してきた実績もある。これらの分野で先頭を走る日本がアジア諸国を取りまとめていく責任がある。

2)次の資本主義の形を考える必要もある。産業資本主義から金融資本主義に移行し、いまはつまずいたかに見える米英の次の動きを前にして、「お手並み拝見」を決め込む訳にはいかない。日本とドイツは産業資本主義の次期卒業生候補になるからだ。留学生のように、いつまでも産業資本主義に留まっていたいというのは難しいだろう。