医薬品企業の勝ち残り戦略

大型医療用医薬品の特許切れやバイオ医療の台頭、価格の安い後発医薬品「ジェネリック」の急増、さらにグローバル・メガフアーマとの戦いなど、医薬品産業はいまパラダイムシフトに直面している。  
 「医薬品企業の勝ち残り競争戦略」について3人の経営者に戦略を聴いた。
グローバル・カテゴリー・リーダーで競争優位を確立:畑中氏
医療業界は押し寄せてくる危機内容が具体的に予測できる。危機のひとつは2010年近辺で多くのメーカーの大型医薬品の特許が切れることで、各医療メーカーの収益に重大な影響をもたらすと懸念される「2010年問題」。そしてもう一つは医療費削減という衣料品メーカーにとって死活問題との言える大きな危機である。
畑中:当社では、05年に山之内製薬と藤沢薬品の合併後、「VISION2015」の中で打ち出した「グローバル・カテゴリー・リーダー(GCL)」と言うビジネスモデが戦略や行動の基軸になっている。これは当社の強みが医療用医薬品の新薬開発分野であるからだ。もともと山之内製薬は低分子合成、藤沢薬品は発酵技術に強みがあったが、合併以降、加えて抗体や蛋白のテクノロジーを強化するなど創薬技術も多様化してきている。また、既にGCLである泌尿器や移植・免疫領域に加え、この5年ほどでがん領域に大きな投資を行っている。持続的な企業価値向上のために、研究技術基盤強化による新薬創出力を高める必要がある。そのために自社製品を中心としたビジネスを日本・米国・欧州・アジアの4極でバランスよくグローバル展開することで、事業拡大と収差確保を図っていこうと考えている。
多田: 当社は積極的な海外展開で事業拡大を図ろうと考えている。まず知的財産権に守られた優れた製品を継続的に確保し、その事業で得られた収益を次の新薬創製に充て、できた新薬をグローバルに展開していくという循環を軌道に乗せたい。ただ、研究開発分野においてもグロ-ダリレ展開を進めていく国の優先順位においても、今は「選択と集中」を戦略的に実 践していくことが重要だと考えている。研究開発では精神神経とがん・免疫の領域に絞り、グローバル展開では北米と中国に集中を図っている。    
変化する多様なニーズに貢献するビジネスモデルを:中山氏
  中山 変化し、かつ多様化する医療ニーズに応えていくため「ハイブリッドビジネスモデル」を推進している。価値ある新薬をスピーディーに開発し、成長著しい新興国を含むグローバル市・場でのビジネスを展開する「イノベーティブ医薬品事業」をはじめ、ジェネリック医薬品などを提供していく「エスタブリッシュド医薬品事業」、国内ではこれらに加え「ワクチン事業」「OTC医薬品(一般医薬品)」を強化している。このビジネスモデルそのものの進化を意識して事業を展開している。第一三共の発足以来、アステラス製薬のOTC子会社のゼファニマ、インド最大の製薬会社のランバクシーの買収、北里研究所との合弁会社・北里第一三共ワクチン、第一三共ヱスファの設立などを通じで強化してきた。 
  伊藤: アステラス製薬と大日本住友製薬が医療用医薬品にこだわり、グローバル化でも「選択と集中」を戦略軸としているのに対し、第一三共は事業の多角化の道を選んだ。その理由は何か。
  中山: それぞれの国との関わり方をした企業のあり方を追求したい。例え日本では少子高齢化に伴いジェネリック品やOTC医薬品、ワクチンヘの需要まっている。こうした地域特性を踏まえたその国のニ-ズに応えていくことも医薬品メ―カーの使命だと考えている。
今の医薬品業界では2種類のイベーションが起こり始めている。1つは医薬品などの創薬手法、あるいはそれ登場した医薬品による新市場型破壊型。もうひとつは、ジェネリックやOTCによってもたらされたコーエンド型破壊である。アステラス製薬や大日本住友製薬がジェネリック医薬品にない理由は何か。
 畑中:ジェネリックビジネスは、新薬ビジネスと違う。アンメットメディカルニーズの高い大きな機会が存在することから、アステラス企業規模からすれば、強みを生かせる領域での新薬創出に注力することが当社の役割である。
「選択と集中」を軸にグローバルな展開を:多田氏
多田:当社も同じ考えで、今のところジェネリックの分野に当社の強みを活かせるとは思わない。選択と集中選なければならない時期であり、資源投入をジェネリックに割り当てる余裕はない。   
畑中:創薬における国際競争カは多様な新薬アイディアと多彩なアプローチを如何に持つことが出来るかに尽きる。より多くのコラボレーションが競争力を高めている。
多田:多くの大学と研究提携を行っているが、企業とは異なる視点を得られる意義は大きい。大学とは立ち位置や目的が異なることを理解し、より高い見地から共同研究に臨むことができれば、オープンイノベーションが生まれる可能性は高まるはずだ。   
伊藤:各社が企業価値を高めるために、それぞれの戦略を遂行する人材がそろっているかどうかが重要だ。これまで「部分最適」という環境で育って断きた人々を、グローバルな視野でしかも総合的なプロデュースができるように変えていくにはどうしたらよいだろうか。 
 多田:開発した新薬だけでなく既存の製品も含め、製品価値の最大化を図る意識を全員で共有しなければならない。特に医薬情報担当者材(MR)には意識改革や情報武装を徹底させている。また、各地域で意思決定ができるよう地域本部制も敷いて部分最適に陥らないような環境づくりを行っている。     
 中山: 買収や提携でさまざまな国や地域の優れた人材を得た。社員の意識も大きく変化している。日本の社が多様な才能と出会い、自らを鍛え成長する場を拡大していきたい。
 畑中 経営環境の複雑化、多様化、加適化、一層のグローバル化のもとで、グローバルアステラスをリードできる人材層の充実が急務となっている。この課題への取り組みの1つとして、昨年10月より、Executive LeadershipSeriesをスタートした。
全体最適で判断できる人材の育成を:伊藤氏
 伊藤 岐路に立つ医薬品メーカーにおいて全体最適を判断できる人材とは、的確な情報を集める能力を持ち、それを使いこなして状況把握や先を読むことのできる人である。そうした人材の育成こそが、企業価値を持続的に高め、勝ち残りの競争力のカギを握る。3社のこれからの躍進に期待したい。

2012.01.30