武田 針路を探る(下) 長谷川社長に聞く

 武田薬品工業の長谷川閑史社長は21世紀の企業に必要な条件を「グローバル化とダイバーシティー(多様性)」と説く。日本で蓄積してきた知識や経験だけには頼れない。世界市場で成長するための戦略を聞いた。
英語で取締役会
 ―幹部に海外から招いた人材が増えた。
「取締役会など重要会議は英語でやり取りするようになった。いまは暫定的に同時通訳を使い日本語で話してちょいと決めている。4月から通訳を廃止する予定だったが、まだ難しいようだ」
 「日本人社員は(英グラクソスミスクライン研究開発部門トップなどを歴任した)山田忠孝取締役、米ミレニアム・ファーマシューティカルズのデボラ・ダンサイア最高経営責任者など世界で競争してきた人材に触れ、何が自分たちに足りないかを認識できた。そこに大きな意味かおり、変化が起き始めている」
 -とはいえ社内に抵抗があったのでは。
 「武田とミレニアムの研究陣が議論し、競争に勝つための具体策作りで武田側はたたきのめされた。理屈で負けては仕方ない。納得して相手の判断を受け入れるようになった。ミレニアムが抗がん剤事業を主導するようになってから複数の有力な新薬候補を手にできている。-競争力がない候補の開発は早めに中止し、資金を他に回す決断もできるようになった」
 -経営陣の変化は。
  「スイスの製薬会社ナイコメッドの買収で人員が増えたのに伴い、欧米で約2800人を減らそうとしている。独バイ工ル元役員で労組との交渉経験を持つフランク・モリッヒ氏が武田の取締役に加わったから実行できた。日本人だけで構成する経営陣では国・地域ごとの実態の的確な把握や対応はできない」
-ナイコメッドは新興国市場に強い。
  「世界の医薬品市場では今後の成長の約7割が新興国で生まれる。買収でそこに足場ができた。主力薬の特許切れなど環境が悪化する中、2013年度を底にし、14年度以降は確実に収益成長する見通しが立った」
  「現在は武田の新薬候補のうち、どれがどの国・地域に適しているかを具体的に検討している。それ以外の製品が必要となれば、新規に借り入れをしないで済む範囲で(販売権の獲得などに)投資をしていく」
  -両社でどう連携し、何を学ぶべきか。
  「ナイコメッドは新興国で非常に勢いのある会社だ。それを止めるな、親会社風を吹かせて邪魔をするなと話している。各国・地域の規制に準拠して製品を開発するスピードは当社をはるかに上回る。迅速な意思決定や実行力、困難な問題に立ち向かう起業家精神もぜひ取り込みたい」
現金を強く意識
 ―買収で5700億円を借り入れ、長年の無借金経営と決別した。
  「新興国で武田の存在感は非常に薄い。財務体質は悪化したが、成長に必要な買収だった。同時に、キャッシュ(現金)への意識が強まった。新たな買収の機会があっても『また借金するのか』と思うと、より慎重にならざるを得ない。向こう3年間で買収や技術導入などに使える現金を(取締役などが参加する)業務執行会議で共有し、その範囲で実行する」
  -グローバル化で全てが変革の対象になる中、武田の経営トップに求められる資質とは。
  「英語でコミュニケーションする能力は必要だが、それ以外は以前と変わらない。一番大切なのは(誠実を旨とする)夕ケダイズムを経営の柱として守り続けることだ。変えるべきもの、変わらざるものがある」

2012.03.17