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M&A幾たび 流転する職場で働く 家族・異なる風土・・・・ケア不可欠

事業再編に伴うM&A(合併・買収)に伴い職場環境の大きな変化に直面する人が増えている。上司や同僚の顔ぶれが変わったり、転勤を余儀なくされたり。会社人生を歩み始めた当初は想定しなかった事態とあって、本人にはストレス。会社側の丁寧な説明と周囲の支えが欠かせないようだ。
 「まいど」。村田製作所高崎オフィス(群馬県高崎市)で働くAさん(44)は、本社からの電話やメールでの関西ならではの呼びかけにようやく慣れてきたばかりだ。
 Aさんは今年2月末まではルネサスエレクトロニクスの社員だった。携帯電話の音声用パワーアンプの開発・設計を担当していたが、不採算事業の見直しに伴い同部門は2011年夏、村田製作所への売却が決まった。同じく移籍した同僚らとともに3月から村田製作所の一員となり、ルネサス当時と同じ開発・設計の仕事をしている。
 「事業の業績は厳しく、いずれ事業部解体もあるかもしれない」と覚悟はしていた。部門売却が決まったときは「とうとう来たか」と身構えた。幸い買収先の村田製作所からは今後の仕事内容や待遇などの説明が早々に行われ不安は薄れたものの、勤務地はしばらく決まらなかった。前の職場は長野県小諸市の事業所だったが、結局、パワーアンプの開発・設計拠点は群馬県高崎市に集約され、長野の自宅に高校受験を控える子ら家族3人を残して単身赴任することになった。
 実はAさんの勤務先が替わるのは3度目。最初は日立製作所に入社したが、半導体事業の新会社、ルネサステクノロジー発足に伴い03年に移籍。10年には他社も加わり、ルネサスエレクトロニクスとなったばかり。それから1年半もたたずして村田製作所への転籍が決まったことになる。
 「村田製作所は(メーカー思考の)私たちが製品と言っていたものをすべて『商品』と言うなど、あきんど文化の会社。意思決定は速いし、『今度こそきちんと結果を出さなければ』というプレッシャーは大きい」と話す。
 給食ビジネスを手掛ける工ムエフエス(東京・豊島)のBさん(47)は昨年5月までは森永製菓傘下の森永フードサービスで働いていたが、会社が丸ごと業界大手の西洋フード・コンパスグループに売却され、社名も変更。83年に入社して以来、初めての荒波に向き合っている。
 「西洋フードグループは上司もすべて『さん』付けで呼ぶ文化で最初は驚いた。仕事内容や同僚は以前と変わらず助かったが、会計や商品発注のシステムは西洋フード側にすべて統合され、なじむのに半年かかった」と振り返る。
 企業コンサルタント、アドバンテッジリスクマネジメント(東京・目黒)の調査によると、「合併の直前・直後は、対象となる人たちのストレスの総和は組織全体で5%は高まる」 (神谷学取締役)。多くの人は順応できても、「ストレス耐性の低い人がいれば、精神的疾患につながる可能性がある数値。企業のきめ細やかなサポートは欠かせない」と指摘する。事業の将来戦略などの説明はもとより、家族の人生設計にも影響が及ぶ可能性かおるため、給与など待遇に変化が生じる場合はなるべく早く明確に説明することが必要になる。
 4月に発足したジャパンディスプレイ。韓国企業などに対抗するため、官民出資のフアンドを大株主として東芝、日立製作所、ソニーのグループ企業を統合した中小型液晶事業の新会社だ。松本オフィス(長野県松本市)で働くCさん(50代)は事業の売却や統合などで勤め先の企業名が替わるのはこれで5度目となる。ただ転勤は求められず、「家族は変動の激しい業界だと理解しているので、冷静に受け止めてくれている」「不安がないと言えば嘘になるが、むしろ統合による規模拡大への期待感の方が大きい」。修羅場をくぐってきた経験が豊富なだけに前向きにとらえるが、そうでない人もいる。
 同社のDさん(40代)は、「来春までは給与などの待遇は変わらないと説明を受けたが、その後は統合3社のうちもっとも給与水準の低い会社に合わせるとの見方が出ている。各地にある工場のうち、採算の悪いところは存続できなくなるかもしれない」と現場の不安を打ち明ける。
 国際医療福祉大学の上島国利教授は、「若い世代と異なり、40代以上は最初に入社した会社で定年まで勤め上げるという価値観を持つ人が多い世代。しかしその前提はもはや崩れている」と指摘する。
 それなのに自分の所属する会社が売却、他社に統合されれば、転職がしづらい中高年ほど不安やストレスは高まりがち。事業見直しに伴い職を失う人もおり、東京商工リサーチの調査では昨年、希望・早期退職募集をした上場企業52社だけで募集人員は約8600人となった。上島教授はストレスを緩和させるのに「特効薬はないが、同じ立場の同僚などと情報・意見交換を密にするのがよい」と話す。
 M&A助言のレコフによると11年の日本企業のM&A件数は1687件。ピークだっ
た06年よりは4割少ないが、80~90年代よりは多い水準だ。業績改善には従業員のモチベーション向上が欠かせないだけに、経営陣はM&A後の事業の将来性を明示することが何より必要なようだ。

2012/05/29