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「正社員特権」は永遠か グローバル化で足場緩む

 能力不足でも解雇されず給料も高い。非正規社員増加の元凶だ……。正社員、特に大企業で働く中高年に風当たりが強い。
 労働力流助化のため、解雇規制を緩めるべしという議論も盛んで、これに労働組合が猛反発。社会の一大勢力である正社員を敵に回せない安倍晋三首相も大幅改革には慎重だ。
 だが経済のグローバル化やコンピューターの進歩で正社員の足場が揺らぎ始めたのも事実。終身雇用や年功賃金などの繕権妙経済原理で自然に崩れる事態も想定し、次の雇用制度を考える時ではなかろうか。
 欧州で経済が堅調なドイツや北欧と不振の南欧諸国との違いは財政運営とともに、柔軟な人材移動のための労働市場改革にある。
 イタリアのモンティ前政権は業綬不振の企業が金銭補償で社員を解雇できる道を開いた。だが労働組合は反発。スペイン、フランスも労働改革で苦闘する。
 反対にドイツは10年前から解雇規制の緩和や資格を必要とする職種の削減などを進めた。北欧はもっと前に改革を終えた。
  「ドイツ経済が堅調な理由としてユーロ安による輸出増加もあるが、労働市場改革の効果は大きい」と武田洋子三菱総合研究所主席研究員はみている。
 東欧・アジア諸国が台頭した今、労働改革の成否は先進国の明暗を分ける。その鮮やかな例が欧州だ。
 日本にとって人ごとではない。正社員と非正規社員を合わせたサラリーマンの平均年収は409万円(2011年)と、世界では上位2%程度に入る。正社員だけならもっと上だ。
 だが労働生産性、つまり働く人1人当たりの付加価値額は2年前に経済協力開発機構(OECD)加盟34力国中、19位だった。
 給与が高く生産性が低ければ国際競争に勝てない。その裏には企業が465万人の余剰人員(2年前の内閣府推計)を抱える現実もある。終身雇用や解雇規制に加え、政府が雇用調整助成金で不況期も企業に雇用を維持させた結果だ。この
 「正社員保護主義」が競争力低下の一因である。グローバル競争に加え、コンピューターの進歩も正社員に脅威。米経済学者E・ブリニョルフソン氏らの著書「機械との競争」は高度に知的な労働と肉体労働が残り、その中間の事務職が機械に置き換わるとみる。日本でいえばホワイトカラーの終身雇用や年功序列賃金を脅かすということか。
その終身雇用や年功賃金は戦争遂行のための国家総動員法(1938年)制定後に定着し、戦後の成長期も人材確保に役だったが、今では弱みと化した。
  「日経ビジネス」誌は83年9月19日号で企業史の調査から「企業の繁栄は、たかだか30年」という傾向を見いだした。「会社の寿命30年」説だ。寿命が30年なら40年以上も人を雇う制度には無理がある。環境変化が激烈ならなおさらだ。
 正社員を雇うリスクから非正規社員の割合が35%へ増えたが、その生涯賃金は正社員の半分以下。この差は社会不安の種にもなる。
 何より日本型雇用は今や正社員にも最善とは限らない。電機業界のように競争に負けて急に破綻したり人を減らしたりする時代だ。スキルが乏しく心の準備もなければ路頭に迷う。
  「会社がつぶれることと雇用不安の問題とを切り離せるような仕組みにしないといけない」と柳川範之東大教授。全くだ。カギは衰退産業から成長産業へ人の移動を促す仕組みづくり。
 それには転職しやすい環境が要る。政府の産業競争力会議は転職への助成金を拡充する方針。後ろ向きな雇用調整助成金(昨年度1134億円)よりも能力開発を含む支援が大事だ。
  「転職先を増やすため介護・保育分野などの規制改革も重要」と大田弘子政策研究大学院大教授は言う。
 政府は解雇無効の判決が出たら企業の補償金支払いで雇用契約を終える道を開く「事後型の金銭解決」も検討中。補償の目安ができれば「少額で解雇されている中小企業社員を守れる」と八代尚宏国際基督教大客員教授。負担増を恐れ、多くの中小企業経営者は反発
するが、定着すれば人材攪得にも役立つはず。
 勤務地を限り、そこの彫業所を閉じる時は退社するなど地域や職務限定型の社員の導入は、非正規社員を「準正社員」にする狙いがあるが、柔軟な労働市場への一歩にもなりうる。
 一方、企業が再就職支援金を払えば解雇できる「事前型の金銭解決制」は反発が強いため導入を見送る。乱用には注意すべきだが、人の移動を促す手段として検討を続けるべきではないか。政府はほかにも検討の過程で浮上した様々な労働市場改革案を見送る。
  「政府の改革案は日本型雇用の根幹に触れない部分的な手当て」と大久保幸夫リクルートワークス研究所長はいう。日本特有の一括採用や人材配置などが一体となった仕組みを変えるには山はどの宿題がある。
 個人の意識にも問題ありとみるのはライフネット生命保険を7年前に設立した出口治明社長。「何年か企業で働いた人にはベンチャー企業などで存分に生かせる能力が必ずある。転職を恐れないでほしい」。同社の社員89人の大半は中途採用で、60歳代も8人いる。
 日本型の雇用が長続きしないのなら、後輩たちのためにも改革を急ぎたい。
(日経新聞203.5.13)

2013/06/02